2012/11/25

今回は邦画の秀作がずらり。クリント・イーストウッドの新作を
含めどれも面白かったです。

ふがいない僕は空を見た  監督 : タナダユキ  出演 : 永山絢斗、田畑智子、原田美恵子
 2012年 日本映画
今週のイチ押し:高校生の斎藤卓巳は助産院を営む母とふたり暮らし。彼はアニメの同人誌のイベントで知り合った主婦の里美と不倫中。卓巳が里美の家を訪れる時は、お互いにコスプレをして情事に耽る。里美には子供がなく、夫の母親からは執拗に不妊治療や体外受精を強要されていた。里美にとっては卓巳との時間だけが心の拠り所になっている。しかし、卓巳は以前から好意を寄せていたクラスメートの七菜から逆告白され里美との関係を断ち切ろうと考えていた。卓巳の親友の福田は団地で極貧の生活。しかも、認知症の祖母まで面倒を見ている。コンビニでのバイトでなんとか食いつないでいるが・・・。そんなある日、コスプレ姿でセックスをしている卓巳と里美の画像がネットでばら撒かれる。それは卓巳の学校でもあっという間に出回ってしまう・・
私評:生きててね。あんたも命の一つなんだから、生きて、そこにいて・・・今年の前半にこの映画の原作本を読んだ。なんだかとても衝撃的だった。映像化された作品は、さらに衝撃的だった。それはとっても静かな感動。登場人物たちはみんなそれぞれ問題を抱えている。(問題の大小はあるけれど)それらの話がもつれあい、絡まり合い結末に向かって歩み出す。胸を締め付けられそうな現実から一歩踏み出した彼らの姿は、この作品を見るものすべてに小さな勇気と幸せをもたらしてくれるだろう。また、原作の中で私がとても気に入っていたセリフが映画でも使われていた事がちょっと嬉しかった。主演の卓巳を演じるのは「罪とか罰とか」「ソラニン」の永山絢斗、そして里美役は「ハッピーフライト」の田畑智子。原作ではデブでブスなキャラなのですが、彼女の独特の雰囲気が里美と言うキャラを生かしていました。初ヌードも必見?卓巳の母役は「ヘルター・スケルター」の原田美恵子。そして印象的だったのが里美の母親を縁いる銀粉蝶さん。イヤらしいです!憎たらしいです!監督は「百万円と苦虫女」「俺たちに明日はないッス」のタナダユキ。期待の女性監督です。
僕の中のオトコの娘  監督 : 窪田将治  出演 : 川野直輝、中村ゆり、ベンガル
 2011年 日本映画
今回のイチ押し:謙介は大学を卒業後に就職をするが、失敗ばかりの毎日。女の上司からは大声で皮肉を言われ同僚からも冷たい視線を浴びせられる。自分自身に失望した謙介は自殺を図るが失敗。それ以来、彼はひきこもりになってしまう。そんなある日、彼はネットで女装する男たち、通称“女装娘”の事を知る。最初は鼻で笑っていた謙介だったが女装娘のひとりで、カリスマ的存在であるカレンとメール交換を始め、次第に興味を抱くようになる。謙介はカレンと直接会い、ついには自分自身も女装娘の世界に入り込んでしまう。今までの自分とは違う自分になり、別世界の住人との語らいは謙介の過去をぬぐい去ろうとしていた。しかし、偏見の目は容赦なく彼らに降り注ぐ。そして姉の知り合いに見つかり、ついには家族にも女装がバレてしまう・・
私評:そんな簡単な気持ちで女装していたのか・・・幸か不幸か?私は専門学校時代に強引に女装させられた経験があります。圧倒的に女子生徒が多かった学校でクリスマスの劇の催しがあり、お化粧をしてセーラー服を着て・・・。恥ずかしさばかりだったのですが、いざ舞台に上がってしまうと信じられないような演技をしていた私。この映画を見て、まず思い出したのがこの経験です。しかし、今の世の中で女装の他にもアニメのキャラのコスプレなんて普通になっていますが、彼らの欲望は“違う自分になる”ことでしょう?衣装だけでなく化粧もすれば、今までの弱い自分が武装して、心も強くなれるかもしれません。それは一種の現実逃避かもしれませんが・・・。しかし、女装趣味がない私も主人公の謙介には思い切り感情移入してしまいました。それだけ私も殻を被ってみたいという内なる欲望があるからかも??主演は女装姿がめちゃめちゃ可愛い川野直輝。彼を理解する優しい姉役は「ララピポ」の中村ゆり、厳格な父親役には「ハッピーフライト」のベンガル。そして印象的なカレンを演じるのは草野康太。監督は「CRAZY-ISMクレイジズム」「スリー・カウント」の窪田将治。
綱引いちゃった!  監督 : 水田伸生  出演 :井上真央、玉山鉄二、松坂慶子
 2012年 日本映画
大分市役所に勤める西川千晶は、知名度がイマイチ上がらない大分市のPRの仕事を任されている。そんなある日、千晶は市長から女子綱引きチームを作ってPRする事を命ぜられる。実は過去に大分コスモレディースという主婦チームが世界チャンピオンになった事があったのだ。さっそくメンバー集めを始めるが応募者はゼロ。そんな時、市内の給食センターが廃止されることに対する反対デモに集まった女性たちを見た千晶は、給食センターの廃止の取り消しを条件に彼女たちをメンバーに引き入れた。チーム名はそのものズバリ“綱娘”!メンバーは千晶の母の容子、容子の親友の和枝、反抗期の息子を抱える絵美、ペットショップの店員に好意を寄せる麗子、認知症の父を抱える美香、競輪好きのかおる、たばこがやめられない沙織、そして千晶自身もメンバーに加わった。そして彼女たちのコーチにはシイタケ栽培農家の公雄が選ばれた。しかし、いざ練習を開始するとメンバーはまったく緊張感がなく、練習試合では小学生に負けてしまう。千晶の怒りが爆発してしまう・・・・
私評:女に生まれて良かった~・・・・最初にこの映画のチラシを映画館で見た時に、ふざけたタイトルだな~と思ったのですが、監督名を見て納得。だって監督はあの「舞妓Haaaaan!!」の水田伸生監督。この監督の作品なら見てみたい!と思いました。そして映画の方はめちゃめちゃスポ根で、めちゃめちゃ浪花節で、めちゃめちゃ感動でした。綱娘のメンバーたちがそれぞれ問題を抱えていてみんなで助け合ったり、陰で特訓をしていたりと、スポ根作品ではとっても”ベタ“な演出をこれでもか!ってくらい放り込んであって、私は見事にその術中にはまって感動しまくりでした。主演は「八日目の蝉」の井上真央。まっしぐらな女性を好演。綱娘のメンバーは「蒲田行進曲」の松坂慶子、「おとうと」の浅茅陽子、「ナビィの恋」の西田尚美、「バックダンサーズ」のソニン、「罪とか罰とか」の犬山イヌコ、TV「和田アキ子物語」の中鉢明子、そして女芸人の渡辺直美。この綱娘8人のキャラクターがみんなすごく良いんです。コーチ役はめちゃめちゃ三枚目を演じる「ノルウェイの森」の玉山鉄二、認知症のじいさんは笹野高史、そして憎たらしい市長役は風間杜夫。お気楽に見れる作品なので、みんなで観に行こう! 
人生の特等席  監督 : ロバート・ロレンツ  出演 : クリント・イーストウッド、エイミー・アダムス
Trouble With The Curve  2012年 アメリカ映画
ガス・ロベルはメジャーリーグで鷹の目“を持つとまで言われる、もはや伝説のスカウトマン。最新のコンピュータを使ったデータでのスカウトを拒絶し、自分の目で見て選手を決めるのが彼の流儀だ。しかし、そんな彼も年齢には勝てない。最近は目がかすんで良く見えない。そんな彼の異変を見てとったのがガスの長年の友人のピート。しかし、頑固者のガスはピートのアドバイスに聞く耳を持たない。やむなくピートはガスの一人娘のミッキーの連絡をした。ミッキーは大手弁護士事務所で働くバリバリのキャリアウーマン。会社からの信頼もあり、最年少で、しかも女性初の会社の役員の座も目前だった。ほとんど父親と交流を持たないミッキーが久々に訪ねた父親は料理で家を焼きそうになったり、車庫から車を出すのにも難儀している。そこでミッキーはガスと一緒にノースカロライナにスカウトの同行をする事を決めたが・・・・
私評:それじゃ、俺はバスで帰ろう・・・・なんとも心温まる父娘の心の交流を描いた作品。長年に渡って交流を避けてきたふたりが、ようやく見つけた接点。しかし、同じ血を引く父と娘はやはり共通項が多いという事を、今更のように知るんですね。そしてお互いを認め合い・・・。親子って嫌だと思っていても、やっぱり似てしまうし、避けようと思っていても、やっぱり気になってしまうもの。そんなふたりが可笑しくて、そして微笑ましくて私はほっこりした気分になれました。主演は他人の監督作品には「シークレット・サービス」以来、実に19年ぶりの出演となるクリント・イーストウッド。頑固じじい役はお手の物です。ミッキー役は「ナイツ・ミュージアム2」「ジュリー&ジュリア」のエイミー・アダムス。彼女のバッティング、最高です!元野球選手の若きスカウトマン役は「TIME/タイム」のジャスティン・ティンバーレイク。その他にもジョン・グッドマン、ロバート・パトリック、マシュー・リラードが出演。監督は長きに渡ってクリント・イーストウッドの右腕として助監督、プロデュースを続けてきたロバート・ロレンツ。これが初監督作品となります。原題の「カーブに問題あり」って感じの意味ですが、邦題の方が断然良いですね。


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