2011/11/23

今年もあと僅かになってきました。
映画の方もラストスパートで追いかけています。
イチ押しは超インパクトの邦画とブッシュの陰謀を描いた問題作。

恋の罪  監督:園子温  出演:水野美紀、神楽坂恵、富樫真
 2011年 日本映画
今週のイチ押し:渋谷の円山町で奇妙な死体が発見された。体はバラバラに解体され、マネキン人形と接続されていた。現場に駆け付けた刑事の和子。あまりに凄惨な現場に言葉を亡くす警察。そしてその壁には“城”の文字があった。和子は夫と娘の3人暮らし。幸せな家族だったが、彼女は満たされず、夫の友人と不倫を重ねていた・・。人気作家の妻で献身的な妻のいずみ。彼女は潔癖症の夫に仕えていたが、友人の誘いでスーパーの販売員の仕事を始めた。そんな彼女に声を掛けてきたのが土居エリという女。彼女はモデルとしていずみを事務所に呼び出すが、いずみは言葉巧みに衣服を脱がされ、しかも専属男優と関係をもってしまう。しかし、それ以来、いずみのタガが外れてしまう。胸の開いた派手な服で渋谷に出掛けたいずみはカオルという男とホテルに入り、サディスティックに凌辱される。ようやく解放されホテルを出たいずみは、ホテル街で売春をする美津子と出会う。昼間は大学の教授をする美津子だったが、夜は娼婦になり男を漁っていた。そんな美津子に惹かれたいずみは、美津子と一緒に身を落としていく・・
私評:愛がないなら、金をとりなさい・・・園子温監督の作品はこれで3作目。しかし、「愛のむきだし」「冷たい熱帯魚」はこのHPのレビューには書かれていません。しかし、どちらも超がつくほどインパクトが強い作品でした。今回の作品は「堕ちていく3人の女たち」の話。ただのエロ映画と違うのは、計算されつくした監督の演出、体当たりの演技を見せる3人の女優たち、そして女たちの内面を深く掘り下げ、そして“邪悪”な部分をえぐり取ったような脚本です。2時間半近い映画なのですが、映画の迫力に圧倒され、ポカンと口を開いたままで時間が過ぎていきました。映画を見た後には、語りたいけど、語る事にさえ罪悪感を持ってしまうような映画でした。刑事の和子を演じるのは「踊る大捜査線」シリーズの水野美紀。オープニングにいきなり全裸で登場!いずみ役は「冷たい熱帯魚」にも出演していて、最近監督と結婚した神楽坂恵。ある意味、彼女がこの映画の物語を牽引していく役。全編で脱ぎまくりのまさに体当たり演技。しかし、これだけのギャップを演じた彼女はすごい!美津子役はめちゃめちゃ怖い顔の富樫真。彼女の狂いっぷりは壮絶。悪魔にでも憑かれたような演技は、ただただ恐怖でした。そしてインパクトがハンパじゃなかったのが、美津子の母親役の大方斐紗子。舞台女優だけあって、迫力のあるセリフ回しは圧巻でした。園監督の次回作「ヒミズ」も観たい!だけど、怖い・・
フェア・ゲーム  監督 : ダグ・リーマン  出演:ナオミ・ワッツ、ショーン・ペン
Fair Game  2011年 アメリカ映画
今週のイチ押し:2001911日、世界中を震撼させた同時多発テロ事件。当時のアメリカ大統領のブッシュはイラクが大量破壊兵器を隠し持ち世界中にテロを輸出していると説き、イラクの攻撃準備を進めていた。この意見に疑惑を抱いたCIAは極秘にこの疑惑の調査を開始した。秘密方法員のヴァレリーは潜入捜査の末、イラクに核兵器開発計画がないことをつきとめた。また、ヴァレリーの夫で元ニジェールの大使だったジョーは国務省の依頼でイラクが大量の濃縮ウランを密かに買い付けているという情報の真偽を確認するためニジェールを訪れるが、そんな事実はなかった。しかし、ブッシュはヴァレリー夫妻の報告を無視してイラクに宣戦布告した。その4ヶ月後、ジョーはイラク戦争の真実をニューヨークタイムズに掲載し、ブッシュ政権に揺さぶりを掛ける。ところがその直後、ヴァレリーが秘密諜報部員だという情報がリークされる・・
私評:お前は強い子だ。いつもギリギリまで頑張る・・・・とっても地味に公開されていたので、危うく観落とすところでしたが、最終日になんとか映画館に飛び込みました。この作品は事実をベースに作られています。ラストシーンでヴァレリーがマスコミの前で語り始めるところで、エンドクレジットになり、実際のヴァレリー自身の映像が流れます。この演出、好きです!!この映画以外でも、ブッシュについては色々と黒い噂が飛び交っていますよね。しかし、どこから見てもこの男は戦争をやりたくて仕方なかったという思いが払拭できません。今となってみればイラク戦争は本当に必要だったのか?私自身も当時はなんとなく“イラクは悪”みたいなイメージが刷り込まれていましたが、悪の根っこはもしかしたら、ブッシュだったのかも??そんな国家の大スキャンダルをふたりの名優が演じます。ヴァレリー役は「キング・コング」のナオミ・ワッツ。さすがにちょっと老けてきましたが相変わらず美しい!そしてジョー役は「ツリー・オブ・ライフ」のショーン・ペン。このふたりがブッシュにガンガン圧力をかけていきます。そして映画の中でドラマチックなのがヴァレリーと父親のシーンなのですが、父親役が「ブラック・ホーク・ダウン」のサム・シェパード!彼が良い味を出しています。監督は「ボーン・アイデンティティー」のダグ・リーマン。
アントキノイノチ  監督:瀬々敬久  出演:岡田将生、榮倉奈々
 2011 日本映画
その日、杏平は父に連れ添われ遺品整理の会社「クーパーズ」を訪れた。高校時代に友人を死に追いやって以来、心を閉ざしていた杏平。そこで彼はゆきと出会う。死後一カ月経ってから遺体が発見されたその部屋はベッドが体液で汚れ、虫が沸いている。そんな現場に耐えられず、すぐに辞めていく者が多い中、杏平は平気なようだった。3年前、軽い吃音がある杏平はクラスメートたちに陰でからかわれていた。それを知りながらも彼は陽気なふりをしていた。そんなある日、杏平の友人の山木が飛び降り自殺をした。陰湿な嫌がらせと無関心にキレてしまったのだ。飛び降りる直前に山木は杏平に「キミは味方だと思っていた」と告げた。山木の死後、いじめの矛先は杏平に向いた。登山合宿でいじめの張本人である松井とふたりになった杏平は、軽い殺意を抱いた。しかし、足を滑らせた松井を杏平は救った。しかし、松井は自分が杏平を救ったと嘘をついた。黙っていた杏平だったが、文化祭で杏平が松井を救っている写真が大きく貼り出された。顧問の教師がその現場を写していたのだ。しかし、杏平が今まで受けていたいじめを知りながら、今まで無関心でいた教師に杏平はキレた。そして松井を殺そうと飛びかかっても止めようとしない生徒たちにキレた。そして杏平の心は壊れた・・・・
私評:あの時の命があったからゆきがここにいる。だから俺たち会えたんだ・・・この冗談のようなタイトルが、どうしても観に行く気を削いだのですが・・・。原作はシンガーソングライターのさだまさし。この映画は色々な角度で考えさせられる作品でした。高校生の陰湿ないじめ。陰口だけじゃなくて、今はネットでも誹謗中傷を書けますからね・・。そしていわゆる“キレる”になって、最後には壊れてしまう。そういうある意味ポジティブないじめ以上に辛いのが無関心です。この描き方も上手かったです。そしてもうひとつが「遺品整理」という職業。確かにこういう職業ってあるんですよね。私も死期が近づいたら、みんなに見られて恥ずかしい物は処分しておこうとか、無駄なものが多いから、今から処分しようとか・・・、自分に当てはめて観てしまいました。心に傷を持った杏平とゆきの人生に明るい兆しが見えてきて、ハッピーエンドと思いきや、とんでもないどんでん返しがあり、私はかなりショックを受けました・・・。杏平役は「悪人」「告白」の岡田将生、ゆき役は「余命1カ月の花嫁」の榮倉奈々。そしてネプチューンの原田泰三がふたりのやさしい先輩社員を演じているのですが、これが予想外に良いキャスティングでした。思いっきり泣きたい人にはおススメの映画です。監督は「感染列島」の瀬々敬久。
ラビット・ホール  監督 : ジョン・キャメロン・ミッチェル  出演:ニコール・キッドマン、アアロン・エッカート
Rabbit Hole  2010年 アメリカ映画
郊外の住宅地に住むベッカは、4か月前に愛する息子を交通事故で亡くした。それ以来、ベッカは家の中に残る、息子の思い出の品々にも心を揺さぶられ、精神的に完全にまいっていた。人との接触も避け、夫と通い始めた「愛する身近な人を亡くした人たちのグループセラピー」にも参加するが、その集いは逆にベッカの精神を逆撫でするだけだった。夫とも口論が増え、母親の家を訪ねても気まずい雰囲気を醸し出してしまう。そんなある日、彼女はある少年を目撃する。実はその少年はベッカの息子を轢いた本人ジェイソンだった。彼を責めるでもなく話をするベッカ。ジェイソンはずっと事故の事を気にかけていたとベッカに謝罪をする。そしてふたりは公園のベンチで話をするのが日課になった。ベッカが「パラレルワールド」の本を読んでいると打ち明けると、ジェイソンは一冊の自作のコミックを取り出した。そのタイトルは「ラビット・ホール」というSFだった。ジェイソンは未完成の本が出来上がったらベッカに見せると約束する・・・・
私評:苦しみは変わるわ。圧し掛かっていた大きな石がポケットの小石に変わる。だけど、いつもそこにある・・・私の大好きなニコール・キッドマンが映画化を熱望し、自らプロデュースと主演をした作品です。子供を失ったショックから立ち直れず、もがき苦しむ夫婦。彼らがいかにして再生していくかがこの映画のテーマ。絶望をひとりで抱え込んでしまうベッカを、周りの人々が少しずつ癒していくのですが・・。子供を轢いた少年ジェイソンとの交流のシーンが私はすごく良いと思った。彼もベッカと同じくらいの悲しみを抱えて生きていたのです。辛さを抱えて生きる人たちの話なので、ラストシーンはひと際キラキラして見えました。主演はこの作品で今年のオスカー候補にもなった、私の女神さまニコール・キッドマン。彼女の形容詞はただひとつ“Beautiful”。夫役は「サンキュー・スモーキング」のアアロン・エッカート。ベッカの母親役は「シザー・ハンズ」のダイアン・ウィースト。彼女が今回も素晴らしい演技を見せます。そし冒頭に書いたこのセリフ・・最高でした。監督は「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」のジョン・キャメロン・ミッチェル。
ハラがコレなんで  監督 :石井裕也  出演:仲里衣紗、中村蒼、石橋凌
 2011年 日本映画
妊娠9カ月。お腹の子供の父親をアメリカに残し、彼女はひとりで切羽詰まった生活をしていた。ついに彼女はアパートを引き払い、流れる雲を追いながら寂れた長屋に辿り着いた。そこはかつて光子の両親が夜逃げして、暮らした場所だった。毒舌を吐きながらも、元気いっぱいだった大家のおばあちゃんも今は寝たきり生活。頼るあてがない光子は大家の家に転がり込み、大家の面倒を見ながら出産することにした。かつて溢れていた長屋の住民も、今は光子の幼なじみの陽一と彼の叔父の次郎だけになっていた。次郎と陽一は客がほとんど来ない食堂を営んでいる。かつて子供時代に陽一は光子に「大きくなったら結婚してくれ」と告白した事があった。腹の子供を気に掛けた陽一は預金通帳を光子に渡し、子供の面倒も自分が見ると告げた。それに感動した光子は大きな腹をさすりながら、翌日から店の手伝いを始める。気合の入った客引きで、お店は徐々に繁盛していく・・・
私評:風向きが変わったら、その時ドーンと行けばいいんだから・・・・この映画のテーマは「粋の人生」。光子が常にこだわっているのが、粋なことなんですね。それは人のために何かをしてあげることだったり、カッコ良くタンカを切ることだったり、ケチケチしないことだったり・・様々あるのですが、それがあるからこそ、彼女はくよくよせずに何事も前向きに、そしてがむしゃらに行動するのです。思わず「いよ!粋だね!」って声を掛けたくなる。そして光子の周りの人々も彼女からパワーをもらって、新たな一歩を踏み出していくのです。なんだかとっても元気になれました。この映画を観に行こうと思ったいちばんの理由は監督が「川の底からこんにちは」「あぜ道のダンディ」の石井裕也だったから。この2作品がとんでもなく面白かったのは、人物描写がとってもうまいからなんですね。基本はコメディ映画なのですが、その中には人生の深い話がたっぷり入っています。光子役は「ゼブラーマン2」「モテキ」の仲里衣紗。この役は彼女にピッタリでしたね。陽一役は「BECK」「パラノーマル・アクティビティ 第2章」の中村蒼、シャイでちょっと内気な次郎役は石橋凌、そして粋な大家役が「川の底からこんにちは」の演技も印象的だった稲川美代子。粋な人生、送りたいよね。


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