2012/1/15

久々に週末の映画三昧。ハシゴしました!
イチ押しは狂気の男と彼の影武者の壮絶な物語

デビルズ・ダブル ある影武者の物語  監督 : リー・タマホリ  出演 : ドミニク・クーパー、リュディヴィエーヌ・サニエ
The Devil's Double  2011年 ベルギー映画
今週のイチ押し:イラク軍の中尉だったラティフはある日、かつての級友だったウダイに呼び出された。ウダイはサダム・フセインの長男。ウダイがラティフを呼び出したのは、容姿がそっくりなラティフを自分の影武者にするためだった。一度は断ったラティフだったが彼に選択の余地などなかった。小さな整形と義歯によってふたりは瓜二つになり、サダムも認めるほどだった。それ以来、ウダイの傍らにいる事を命ぜられたラティフは、狂気に満ちたウダイの私生活を見守るという拷問の日々を送った。特にウダイは女に目がなく、町で誘拐した10代の女学生から、今まさに結婚式を挙げている花嫁にまで手をつけるありさまだった。そんな時、彼はパーティの最中に父の側近であるカーメル・ハンナという男を惨殺。ウダイはカーメルが父に愛人を紹介したため、母親が不憫な思いをしたと思っていたのだ。そんなウダイに父のサダムは「産まれた時に殺すべきだった」と嘆く。そしてついに湾岸戦争が勃発する・・
私評:その後は、皆様の知っているとおり・・・・この物語は映画の主人公であるラティフの手記が原作になっている。権力を笠になんでもやりたい放題の男ウダイ。彼の狂気は本当に信じられないくらい凄い。人間らしい感情なんて、粒ほども持ち合わせていない。しかし、これらが事実だと言うのだから、本当に驚きです。実在のウダイは2003年に米軍によって殺害されています。普段はこんな事は絶対考えませんが、この男は死んで良かったと思いました・・・。この映画の一番の驚きはラティフ、ウダイの二役を演じるドミニク・クーパーの演技です。片方ずつを一気に演じたのではなく、両方のキャラを行ったり来たりして撮ったと言うのですから、また驚きです。オスカーを獲っても良いじゃないでしょうか。そしてもうひとつの驚きがウダイの情婦でラティフに惹かれていく女サラブを演じる「スイミング・プール」のリュディヴィーヌ・サニエ。フランソワ・オゾンの秘蔵っ子のイメージが強い彼女ですが、今回はエキゾチックで情が深い女という違う一面を見せてくれました。彼女もすっかりおばさんになって・・・監督は「007/ダイ・アナザー・デイ」のリー・タマホリ。
哀しき獣  監督 : ナ・ホンジン  出演:ハ・ジョンウ、キム・ユンソク
The Yellow Sea  2010年 韓国映画
中国の延辺朝鮮自治区でタクシー運転手をしているグナムは韓国に働きに出た妻の入国資金として作った借金を返すため、高レートのマージャンに手を出し、さらに借金を増やしてしまう。妻は韓国に行ったきり行方知らずになっている。そんなグナムに借金を一気に帳消しにできると取引を持ちかけてきたのは犬商人のミョン。彼の指令は韓国に行き、ある男を殺す事。選択の余地などないグナムは、もしかしたら妻に会えるかもしれないというわずかな期待も抱えつつ密航船に乗り込んだ。標的はソウルの体育大学の教授キム・スンヒョン。念いりな調査を重ねついに行動に出るグナム。しかし、グナムの目の前で別の男たちによってスンヒョンは殺害されてしまう。スンヒョンの殺害の証拠として親指を切り取り逃走するグナム。そして中国への帰り便の約束の場所を訪れるが、そこには誰も現れない。彼はミョンによって嵌められたのだ・・・・
私評:それなら一生負け犬だ・・・・「チェイサー」のナ・ホンジン監督の新作です。「チェイサー」は本当に怖い映画でした。「哀しき獣」はさらに強化された圧倒的な迫力の暴力シーンに加え、完璧なまでのシナリオで私をグイグイと引き込みました。絶望に向かって暴走する男たちはまさに「狂気」の塊。彼らの辿る末路が悲しくもあり、そして哀れでもあり・・・。2時間20分の上映時間は決して長くありませんが、見終えた後の疲労感はハンパじゃないです。グナムを演じるのは「チェイサー」で恐るべき犯人を演じたハ・ジョンウ、ミョン役は「チェイサー」で狂気の刑事を演じたキム・ユンソク。また、このふたりに絡む悪徳社長役に「火山高」のチョ・ハソン。このトライアングル・・・ヤバすぎます。エンドクレジットに挟まれる某シーンも、なんだかとっても空しい思いを掻き立てますので、お見逃しないように。
ロボジー  監督 : 矢口史靖  出演 : 五十嵐信次郎、吉高由里子
 2011年 日本映画
家電メーカーの木村電器の社員小林、太田、長井の3人は行き詰っていた。能天気でワンマンな社長に、ロボット博覧会に出す2足歩行のロボット「ニュー潮風」の製作を命令されていたが、2階の窓から落ちて大破。バックアップなどもちろん取っていなかった彼らは、ついにロボットの中に人間を入れて動かす事にした。オーディション末に選ばれたのは鈴木と言うわがままな老人。日当30,000円の着ぐるみショーだと思っていた鈴木は、他のロボットに対抗意識を燃やして、小林の命令を無視して大暴走。しかも、会場に来ていたロボットオタクの女子大生の葉子に倒れかかってきたディスプレイから彼女を救出。ロボットが人命救助をしたというニュースは大々的に取り上げられ、ニュー潮風は一躍有名になり出演依頼が殺到する。いまさら「中に人が入っている」なんて言えない小林、太田、長井の3人は鈴木に全てを打ち明けた。渋々、ふたたびニュー潮風の中に入る事を承諾した鈴木と3人の珍道中が始まった・・・・
私評:鈴木さん、実はまたお願いが・・・・・矢口監督の作品は毎回楽しみにしています。ここ最近の「ウォーターボーイズ」「スウィング・ガールズ」「ハッピーフライト」は本当に面白くて、DVDでも何度か見直しています。今作は予告編からしてワクワクさせてくれました。「そのロボットは変形しない・・・戦わない・・・飛ばない・・・合体しない・・働きもしない・・」このフレーズだけで大爆笑でした。しかし、冒頭に挙げた3作はクライマックスで涙が出るくらいの感動があったのですが、今回はそれがなくて残念。小さなほんわかな感動で締めくくっちゃいました。それでも私は大満足でした。ニュー潮風に入る鈴木を演じるのはミュージシャンとしての方が有名なミッキー・カーティスが五十嵐信次郎という名前で初主演。飄々とした雰囲気がこの役にピッタリ。そして女子大生の葉子を演じるのは「GANTZ」の吉高由里子。コメディエンヌの彼女は100倍も魅力的。映画の中でも弾けていてとても良かったです。木村電器の社員は濱田岳、川合正悟(チャンカワイ)、川島潤哉。鈴木の娘役にはすっかりおばさん役が似合うようになった和久井映見、「ハッピーフライト」に続き登場するのは田畑智子。そして過去の矢口作品に出ていた田辺誠一、竹中直人、西田尚美、菅原大吉が良い感じでちょっとだけ登場。監督は矢口史靖。
ルルドの泉で  監督 : ジェシカ・ハウスナー  出演 : シルヴィー・テステュー、レア・セドゥ
LOURDES  2009年 オーストリア、フランス、ドイツ映画
不治の病を抱え車椅子生活をしているクリスティーヌ。彼女はピレネー山脈にある聖地ルルドへのツアーに参加していた。ルルドには病を抱えた人が奇蹟を求めて多く訪れていた。彼女を介護するのはマルタ騎士団の若いボランティアのマリア。最初は献身的にクリスティーヌの世話をしていたマリアも、同じくボランティアで参加している若い男たちとの交流がメインになってしまう。旅が終りに近づいたある日、クリスティーヌに奇蹟が起こる。自分の手も動かせなかった彼女が、一人で立ち上がり、そして歩き始めたのだ。医師たちも彼女の回復には目を見張った。そんな体を手に入れたクリスティーヌは自らの未来を、そして恋愛を楽しそうに語り始める。しかし、参加者の中には「なぜ彼女が?」という嫉妬も湧きあがっていた・・・・
私評:神は気まぐれです。何をお考えなのかは誰も分からない・・・2009年のヴェネチア映画祭で5部門を受賞し、その他の世界中の映画祭で絶賛された作品です。しかし、日本では本当に小さな扱いで公開されました。それもその筈、この映画は感動作ではない。物語は淡々としているし、宗教色が強い。そして極めつけはいきなり”バツン”と終わるエンディング。なかなか取っ付きづらい作品です。しかし、まるでドキュメンタリー作品のようなリアルさと、後半30分に目まぐるしく入れ替わるツアー参加者たちの感情の描き方が秀逸です。奇蹟って何?癒しって何?希望って?未来って?それらが巡礼に来た参拝者たちにどんな影響を与えるのか?まさに”神のみぞ知る”なのです。クリスティーヌ役は「ビヨンド・サイレンス」「サガン ~悲しみよこんにちは」のシルヴィー・テステュー。マリア役は「ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル」で殺し屋を演じたレア・セドゥ。こんな映画で再会できるなんて!監督はミヒャエル・ハネケの元で映画を学んだというジェシカ・ハウスナー。 


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