2002/12/3号

今回はなんとハリウッド映画がまったくありません!
ヨーロッパ、そして中国の名作に酔いました・・・

太陽の雫  監督 :イシュトヴァーン・サボー  出演:レイフ・ファインズ、ジェニファー・エール
Sunshine  1999年 カナダ・ハンガリー映画
今週のイチ押し:19世紀の後半、エマヌエル・ゾネンシャインは父の残した薬酒のレシピを元に販売をし、これが大ヒット。「サンシャイン」と名付けられたこの酒のおかげで彼は財を築く。そして彼は2人の息イグナツとグスタフ、そして若くして死んだ彼の弟の娘ヴァリールも養子として家族に迎え入れた。子供たちは成長し、いつしかイグナツとヴァレリーはお互いに愛し合うようになる。イグナツは判事としてめきめきと頭角を現すが、2重帝国の政権下でユダヤの苗字は相応しくないと勧められ、3兄弟は苗字を「ショルシュ」に変える。しかし、この事は民族を誇りに思ってきたエマヌエルを落胆させた。やがて共産主義に傾倒していくイグナツとヴァレリーの心は徐々に離れて行ってしまう。また、時は流れヴァレリーの息子アダムの物語。彼はフェンシングで世界チャンピオンになり時の人となる。しかし、兄嫁との関係に流され罪悪感に苛まれる。しかも、ナチのユダヤ人狩りに遭い、彼は息子イヴァンとともに強制収容所ゲットーへと送り込まれてしまう・・・
私評:これは一家に伝わる秘伝のレシピだ。これのおかげで得られる日々の糧に感謝を忘れてはならない・・・19世紀後半から100年にも及ぶ家族4代の壮大な物語です。激動のヨーロッパで、まさに激動に人生を歩んだ男たち。そしてその歴史の波に揉まれながらも力強く生きる女たち。これは本当に素晴らしい映画でした。3時間という長尺であっても私は全くダレルことなく、最後までこの映画に没頭し感動しました。この映画に登場する男たちはそれぞれが違う原動力を持っている。エマヌエルは「家族」、イグナツは「名誉」、アダムは「天性の才能」、そしてイヴァンは「復讐」。しかし、彼らの心の根底に流れているのは国家、民族、家族に対する「誇り」なのです。そして彼らの周りにはいつも、彼らをある時は鼓舞し、またある時は利用し、そしてまたある時は精一杯の愛情を注ぐ女たちがいる。この女性たちがまた、素晴らしい。若き日のヴァレリーを演じるのはジェニファー・エール。この映画の要でもあります。そして晩年のヴァレリーはローズマリー・ハリス、アダムを誘惑する兄嫁はレイチェル・ワイズ。その他にもデボラ・カーラ・アンガー、モーリー・パーカーなど素晴らしい女優陣がそろいました。そして一人3役を演じる(イグナツ、アダム、イヴァン)のはレイフ・ファインズ。この映画の彼は最高でした。「シンドラーのリスト」でさんざんユダヤ人をいたぶった彼が、この映画では収容所に入れられてしまいます。このシーンは何だか不思議な感じがしました。(笑)監督はポーランドの巨匠イシュトヴァーン・サボーです。
 
8人の女  監督:フランソワ・オゾン  出演:カトリーヌ・ドヌーブ、エマニュエル・ベアール
8 Femmes  2002年 日本映画
山深い屋敷に続々と女たちが集まってくる。Xマスを家族と過ごすためにやって来たのだ。ところがこの家の主人マヌエルが刺殺死体で発見された。この家にいたのはマヌエルの妻ギャビー、その娘スゾンとカトリーヌ、ギャビーの母親マミーと妹オギュスティーヌ、家政婦のシャネルと新しいメイドのルイーズの7人。外から誰かがこの家に侵入したのであれば、犬が吠えるはずなのに昨夜は静かだったし・・。という事は、犯人はこの中に?その時、窓の外に人影が!それはマヌエルの妹ピエレットだった。それぞれの女たちがマヌエルをめぐる秘密を抱えている。そして女たちはぶつかり合い、貶し合い、殴り合い、噛み付き合いながら、お互いの秘密を暴露し始める。果たして事件の真相は??・・・・・。
私評:最後に残った私が全てを仕組んだのよ・・・・フランソワ・オゾンという監督は作品に独特のスタイルを持たないようだ。と言っても彼の作品で見たのは「クリミナル・ラヴァーズ」「焼け石に水」「まぼろし」、そして今作品と4つ目。ところが、この4つが全て違うスタンスなのです。しかし、どれもが面白いんですよね。今回のこの作品はかなりブラックなミステリー+コメディです。しかも、それを演じる女優たちの面子がすごい!この大競演を見るだけでこの映画の価値ありですよ。しかも、この女優たちがまさに殴りあい、噛み付き合い、しかも歌って踊ってしまうんですよ。は〜、びっくり!この女優陣はブルジョワの高ビー女をフランスの名女優「ポーラX」のカトリーヌ・ドヌーブ、男運がなくヒステリーな女に「ピアニスト」でカンヌ映画祭主演女優賞をとったイザベル・ユペール、色仕掛けでマヌエルを落とすメイドにエマニュエル・ベアール、大学に行き一人離れて暮らす娘に「ザ・ビーチ」のヴェルジニー・ルドワイヤン、ボーイッシュでお茶目な妹に「焼け石に水」のリュヂビーヌ・セニエ、殆ど色情狂の元ストリップダンサーには「星降る夜のリストランテ」のファニー・アルダン、そしてアル中のばあちゃんには「ロンド」「チャタレー夫人の恋人」のダニエル・ダリュー・・・。この女優たちにあんなことや、こんなことまでさせてしまうオゾン監督って・・・すごい。ちなみに被害者のマヌエルは一回だけしか顔を見せないのですが、彼を演じているのはいったい誰なんでしょう??もしかして、オゾン監督だったりして・・??
至福のとき  監督:チャン・イーモウ  出演:チャオ・ベンシャン、ドン・ジエ
幸福時光  2002年 中国映画
現在、無職のチャオ。彼は歳もかなり重ねてしまったし、いまだに結婚できず焦っていた。今日のお相手にチャンスを見出したチャオは自分の身分を嘘で固めてしまう。彼はお金持ちで旅館の経営をしていると・・。二人のお付き合いが始まり、彼女の家を訪ねるとそこには彼女の前夫が残して行った盲目の少女ウー・インがいた。彼女を疎ましく思っていた義母は、厄介払いをするために強引にチャオにウー・インを押し付けるのだった。今までつき通して来た嘘がばれないよう、ウー・インに按摩の仕事を与えると、嘘をつき廃工場の中で仲間と芝居を通す。そんなやり取りの仲でチャオは、徐々に彼女への情が沸いてくるのを知る・・・。
私評:私は分かっていました。でも、皆さんの思い遣りがとても嬉しかった・・・中国映画の山田洋次?チャン・イーモウの映画です。彼の映画は本当にハズレがない。今回は話的にはあまり面白くないのですが、それでも演出の上手さで最後まで話を引っ張り、最後の最後にドーンと強烈なインパクトを残します。けっこう貧乏人の辛い話なのですが、笑いもたくさん盛り込み暗いだけの映画にはしていません。そして映画の中盤で頑なに心を閉ざし笑顔さえも忘れていたウー・インの満面の笑みがスクリーンに映ったとき、監督がこのドン・ジエをヒロインに選んだ理由が分かりました。実はドン・ジエの次の作品「恋人」を映画祭で見たのですが、この映画でも彼女は話すことができない女を演じています。その彼女がパンツとシャツ姿でウロウロするシーンはロリ・ファンにはタマラナイかも?悲劇のヒロインが徐々に明るくなり、ほのぼのした人情ドラマに顔を綻ばしていたら最後にオチが待っていました。そのシーンでは泣けました・・・。しかし、あのむかつく婚約者の女って天童よしみに似てる・・。
ダーク・ブルー  監督:ヤン・スヴィエラーク  出演:オンドジェイ・ヴェトヒー、タラ・フィッツジェラルド
Dark Blue World  2002年 チェコ・イギリス映画
1950年、チェコはドイツ軍の占領下となりフランタは反逆者のレッテルを貼られ強制収容所に監禁されていた。 1939年、フランタは空軍のパイロットとして活躍していた。しかし、ドイツ軍のチェコへの侵攻を境に、彼はイギリス空軍へと従軍する。彼のルームメイトは若い青年カレル。二人の間には固い友情が育まれた。ある時、カルラは戦闘中にドイツ軍に撃墜されてしまう。誰もが死んだと思っていたカレルはイギリス人の人妻スーザンの家に助けを求めた。しかも、カレルは彼女に一目惚れしその夜のうちに関係を持ってしまう。数日後、カレルはフランタにスーザンを紹介する。しかし、スーザンはなんとフランタに惹かれてしまう。友情のためにスーザンの誘いを断るとつもりだったフランタも、実は彼女に惹かれていたのだ・・・・
私評:「それならこの道を。ただし、道がデコボコなのでゆっくり走ってください。」「すごくゆっくりですね」・・・・戦争という状況下での友情、恋愛などシリアスなメロドラマを盛り込んだ秀作です。しかも、そのビターなラブ・ストーリーがこんな戦いの最中でもピタリと納まっています。どんな状況でも人は人を求めるものなんですね。それがこの映画ではごく自然に描かれています。また、人間ドラマだけではなく戦闘シーンも大迫力です。空撮シーンは本当に手に汗握るシーンの連続。また、爆撃シーンも大迫力でした。戦争映画なのになぜか不思議な爽やかな後味なんですね。不思議な映画です。しかし、収容所のシーンはリアルでした。死人を運ぶ荷車に「恩赦」と言う名を付けているドイツ軍の厭らしさ。また、暗くじめじめした感じの収容所がまた、良い意味で不気味でした。この映画の俳優はチャールズ・ダンス以外は知らない人ばかり。カレル役のタラ・フィッツジェラルドは爽やかで良い感じの青年でした。


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