2002/8/12号

秋の話題作の試写会が続々と開始されています。しかし、今回のイチ押しは
タイプこそ違うけど、心に染みる名作でした。

ザ・ロイヤル・テネンバウムズ  監督:ウェス・アンダーソン  出演:ジーン・ハックマン、アンジェリカ・ヒューストン
The Royal Tenenbaums  2001年 アメリカ映画
今週のイチ押し:ニューヨークのテネンバウム家は、かつて世界中の脚光を浴びた。それはこの家の3人の子供たちが天才だったからだ。長男のチャスは10代前半で不動産業に乗り出し大成功を収めた。長女のマーゴは脚本家として大成功を収めるが、現在は神経学者のラレイと怪しい生活を送っている。末っ子のリッチーは国内大会で3連覇を遂げた天才テニスプレイヤーだった。しかし、世界一自分勝手な父親ロイヤルの数々の過ちと裏切りから、3人は歪んだ性格になり、ほとんど一家離散状態だった。しかし、ロイヤルが病のために余命がわずかだと知らされて、家族は22年ぶりに一つ屋根の下で暮らすことに。一度はずたずたに切り裂かれた家族の絆を、一つ一つ繋ぎ合わせて、テネンバウム家は「愛」を築く事ができるのか??
私評:「離婚するのは私たちのせいなの??」「そうとも言えるが、まあいいじゃないか」・・・・・この作品には本当にやられた!こんなに笑って笑って、最後は後ろから殴られたような感動(?)で、思わずうるうるしてしまった。この監督の作品は初めて観ましたが、すごくうまいと思った。とにかく曲者ぞろいのこのキャストを自由自在に使いまくり、それぞれの個性を100%以上引き出している。なんてったって面子がすごいですよ!!上に書いた二人のほかにグウィネス・パルトロウ、ベン・スティーラー、オーウェン&ルーク・ウィルソン兄弟、ダニー・グローバー、そしてビル・マーレイという恐ろしいほどのキャスティング。しかも、みんな今までの演じた役とは、全然違うキャラなんだから〜!お気に入りはテネンバウム家のおかしな隣人イーライを演じるオーウェン・ウィルソンと、シュールで何を考えているか分からないマーゴ役のグウィネス・パルトロウです。今年のNO.1映画の可能性が巨大です。最高!!!
チェルシー・ホテル  監督:イーサン・ホーク  出演:ロバート・ショーン・レナード、ユマ・サーマン
Chelse Walls  2001年 アメリカ映画
今週のイチ押し:ニューヨークで100年の歴史を持つチェルシーホテルは、アーティストの吹き溜まりだ。詩人を目指すグレースはホテルのラウンジでウエイトレスをしている。しかし、彼女の夢ははるか遠く。そんな彼女に好意を寄せるのが画家のフランク。しかし、内気な彼は気持ちを伝えられない。ミュージシャンを夢見るのテリーとロスも、このホテルの住人。しかし、夜通し働いて、昼間に寝るという生活にうんざりしていた。ある日、ロスは派手好きなローナ、そして高校生の少女と、黒人の少年を部屋に招く。テリーは夜通し話続け、ついにある答えを出す。作家のバドはアルコールと女が創作の活力になっている。しかし、最盛期を過ぎ、老いを感じる今日この頃。妻ともはなればなれ、愛人ともイマイチうまくいかない。しかし、原稿の締め切りは近い。やはり詩人を目指すオードリーは恋人のヴァルとの関係に心を痛めていた。ヴァルはオードリーを心から愛していたが、ギャング団との関係が切れずにいたのだ・・・・
私評:人間にとって、ゴーストは大切な財産だ。チェルシーは彼らの声が聞ける唯一の場所だ・・・・・・数々のセレブが愛したチェルシーホテル。私もこのホテルの名前は知っていました。ここを愛した人たちは、ジミヘン、エディット・ピアフ、ボブ・ディラン、ジャニス・ジョプリン、そしてセックス・ピストルズのシド・ビシャスがナンシー・スパンゲンを殺害したのもここ。そしてマーク・トウェイン、O・ヘンリー、アーサー・C・クラーク、バロウズ、ジム・モリソン、アンディ・ウォホールとこのホテルに魅せられた人々は本当にたくさんいる。しかし、ここに挙げた人たちは、チェルシーホテルに魅せられたアーティストのほんの上辺だけ。99%以上の人たちは夢破れ、無名のままここを去り、あるものは別の道を探し、そしてあるものはここで命を落とした。この映画はまさにこのホテルが主役だ。役者たちはほとんどアドリブの演技なんじゃないかな?まさにこのホテルのゴーストに魅せられ、必死にあがいている人々が悲しい。夢を追うことに疲れ、そして現実を見つめたとき、孤独だったり、歳をとっていたりと本当に悲しい事実を認めざるをえない。実に味わいがある役者たちの演技も見所です。そしてこの映画の音楽もすごく好きです。しかし、この映画を見ようと思った1番の理由は製作がクリスティーヌ・バションだからだ。カミングアウトした彼女は、社会を斜めから見据える映画を多く製作している。彼女は今年の上半期で1番好きだった「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」「ボーイズ・ドント・クライ」「ベルベット・ゴールドマイン」の製作者です。
リターナー  監督:山崎貴  出演:金城武、鈴木杏、岸谷五郎、樹木希林
Returner  2002年 日本映画
闇取り引きの現場を訪れてはブラックマネーを依頼者の元に戻すリターナーの宮本。彼は少年時代無二の親友を殺し、彼の臓器を売りさばいた日本人の溝口を探していた。今日も海外から子供が売りさばかれようとしていた。そこに現れた宮本はあっという間に、子供を奪還。しかし、その取り引きに携わっていたのはなんと溝口だった。激しい銃撃戦の最中、一人の少女が現れる。思わず銃を放った宮本・・・。そして彼は溝口を逃してしまう。少女の名はミリ。彼女は未来から人類を救うためにやって来たのだという。半信半疑だった宮本だったが、小型爆弾を首にしこまれた彼は、ミリに従うしかなかった。そして彼は驚くべきものを目にする。しかも、その事件には溝口が絡んでいたのだ・・・。
私評:「アルデンテが食べたい」「ばーか、それは茹で方だ」・・・「ジュブナイル」で日本の特撮のレベルの高さをみせた「ROBOT」が新たに挑んだのは、ハリウッド映画の良いところをパクリまくったSF・アクション映画。CG,ワイヤーなど見せ場がいっぱいなんですが、どれも見た事があるシーンなんですね。まあ、それでも充分映画は楽しめました。主演はアジアを拠点に世界を目指す金城武。しかし、彼の台詞回しは最悪。せっかくの良いシーンも彼が口を開くと台ナシ・・。ルックスも良いし、動きもすごく良いだけにもったいないですね。不思議少女ミリを演じるのは鈴木杏。彼女は元気いっぱいで、しかもちょっとお茶目なところがすごく好感が持てます。溝口を演じるのは最近悪役が多い、岸谷五郎。なんか、ちょっとから廻りしてない??宮本に情報を流す謎の女が樹木希林。彼女は適役でした。しかし、この映画のタイトルを「リターナー」にした意味が映画を見て初めて納得。しかし、それをリターンするのは大変だぞ!!多くを期待しなければ、けっこう楽しめる映画ですよ。
ウインドトーカーズ  監督・ジョン・ウー  出演:ニコラス・ケイジ、アダム・ビーチ、クリスチャン・スレイター
Windtalkers  2002年 アメリカ映画
第2次世界大戦中、ガダルカナルで指揮をとる事になったエンダース伍長は上層部の命令を遂行すべく頑張ったが、部下を全員死なせ自分も大怪我負ってしまう。以来、部下の声が彼を悩ます。そして自分の居場所を求めるかのように戦場への復帰を望んでいた。そんな彼に言い渡されたミッションは、ナバホ族の通信兵を守る事だった。アメリカは最新の暗号にナバホ族の言葉を取り入れ、日本軍を翻弄していたのだ。しかし、もし彼が捕虜に取られてしまいそうになったときには、暗号を守るため彼に銃を向けなければならない。感情をひた隠しにしてきたエンダースだったが、通信兵のベンの人柄に触れ次第に親交を深めていく。しかし、日本軍の攻撃は日に日に過激さを増していく・・・・・
私評:ダイジョーブ、コレハ痛ミ止メ・・・・今年のハリウッド映画は戦争大作が多いですね。この映画はかなり前から撮影されていたのですが、きっと他の作品との公開時期を見計らっていたのでしょう。しかし、この映画は面白かったです。ジョン・ウーの映画なので、アクションシーンはもちろんすごいです!主演のニコラス・ケイジはいったい何人の日本兵を撃ち殺したのでしょう?そして空爆シーン、長距離砲での襲撃等もすごい!でも、それだけだと『ブラックホーク・ダウン』や『ワンス・アンド・フォーエバー』と変わりないのですが、この映画の中で描かれるナバホ族の青年と白人兵の親交のドラマがすごく好きです。そしてこのナバホ語を使った暗号は最後まで日本軍に破られる事はなく、アメリカの勝利に大きく貢献したという事実もしっかり踏まえておきましょう。ニコラス・ケイジは感情をぐっと押さえた演技で、しかも戦いの場では狂気に乱舞するという役どころを見事に演じきっていました。ナバホの青年にはアダム・ビーチ。彼はほとんど無名ですがすごくイイ役者ですね。エンダースと同じ指令をうけ、もうひとりのナバホを守る兵士がクリスチャン・スレーター。そして彼らの上官にピーター・ストーメア。彼らに指令を言い渡す上官にジェイソン・アイザックと曲者が勢ぞろいです。唯一、鳩が飛ばなかったことだけが心残り・・??
海は見ていた  監督:熊井啓  出演:清水美砂、遠野凪子、永瀬正敏、吉岡秀隆
The Sea Watches  2002年 日本映画
深川の遊郭で働くお新は歳は若いがしっかりもの。不憫な家族のために必死になって働いている。そんなある日、一人の侍が店に逃げ込んできた。酔って殺傷事件を起したらしい若い侍をお新は匿いその場を凌いだ。侍の名は房之介。翌日から彼は店に通い始める。しかし、店のお姉さんたちはお新に「客に惚れてはいけない」と釘を刺す。ところが、お新は彼に恋をしていた。房之介の優しい言葉にお新は、いつか彼の元へ嫁いで行けると信じていたが・・・。房之介と別れたショックから、やっと立ち直ったお新は彼女のところに通いつめる良助に少しずつ惹かれていく。貧しくミジメな生い立ちを聞かされお新は同情と一緒に、親近感を抱くが・・・・
私評:客が惚れても客には惚れず、銭金きちんと絞まり良く、チン・トン・シャン・・・・・黒澤明が遺した脚本を、熊井啓が映画化。黒澤得意の山本周五郎原作の江戸人情話です。粋な深川岡場所の遊女たちと彼女たちにまつわる男たち。この映画はもちろん女たちがメインなのですが、男たちが実に良かったです。生真面目な若侍の吉岡、苦労人の永瀬、清水美砂のヒモでイヤラシイ男が奥田瑛二、材木屋の金持ちのジジイを石橋蓮司。このインパクトのあるが、まったく個性の違う男たちが女たちの活力になってるんですね。主役の遠野凪子は熊井監督の前作「日本の黒い夏 冤罪」ですごく印象的だった。今回、一気に主役の座を射止め、今後の熊井作品のヒロインになっていくのかな?お菊役の清水美砂はめちゃ良かった。彼女って本当にいろんな役をこなすんですね〜。しかし、やはり一番気になるのは”この映画を黒澤明が撮ったらどんな映画になったか?”ですね。でも、この映画は熊井監督の良いところが十分生かされていた。四季折々の美しい景色の抑え方なんて最高でしたよ。私はお新の部屋から見える川までの緑がすごく好きです。(あれって薄ですかね??)
金魚のしずく 監督:キャロル・ライ  出演:ゼニー・クォック、ロー・リエ
Glass Tears  2001年 香港映画
16歳の少女Pは愛情の家庭から逃げ出し、反抗的な少女になっていた。ボーイフレンドのトーフにも、完全に心を許すことができずにいる。中国大陸からやってきた少女・チョーは愛のない両親の元を離れ、行方不明になっていた。両親は警察には相談ができず、元刑事の母親の父・ウーに相談することにした。さっそくウーは孫のチョーを探し始める。そんな時、チョーの携帯に電話が。相手はPだった。Pはチョーにお金を貸したという。ウー、P、そしてトーフの3人は、一緒にチョーを探すことに。しかし、そんな折、Pの理解者でもある民生員の女性が自殺未遂をする。気持ちが動転したPはいきなりカッターで自分の腕を切るつける。ウーはそんな彼女を必死に止めるのだが・・・
私評:「島で一人暮らしなんて、私には耐えられない。寂しくないの?」「もう、慣れたよ」・・・・誰にも心を開かなかった不良少女が他人に心を許すまでの物語。ちょっとテンポが悪くて、イマイチ乗り切れなかった作品ですが、どこの国でも若者の心の空洞化は進んでいる。この映画の主人公のPも、そして彼女を取り巻く少年少女も酒、ドラッグ、セックスに身も心も蝕まれている。その中でも頭のよいPは比較的軽症だったのかもしれない。映画の最初の方のむっつりした表情が、映画が進むにつれて少しずつ和らいで行く。そして見せる笑顔。主演のゼニー・クォックは、けっこうカワイイ子なので、この笑顔はすごい武器です。しかし、大陸から渡ってきた人々と香港に住んでいた人々の言葉の違いや、微妙な生活のずれなどが、理解できなかったのが残念でした。見所はビルの上から眺める香港の町並み・・・・。


前回の記事も読んでね〜!



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