2003/7/18号

夏の超大作が続々と公開される中、
シコシコと試写会に足を運びました・・・・。

英雄 HERO  監督 :チャン・イーモウ  出演:ジェット・リー、チャン・ツィイー
Hero  2002年 香港映画
今週のイチ押し:2000年前の中国は7つの国に分かれており、戦乱の世が続いた。しかし、秦の皇帝は強大な武力を行使し、いままさに天下を取ろうとしていた。しかし、皇帝に差し向けられる刺客も数知れずいた。そんな時、皇帝に謁見を求める男がいた。彼の名は「無名」。皇帝の刺客として恐れられていた3人「長空」、「残剣」、「飛雪」を成敗したという。証拠の品として、彼らの武器を皇帝に見せ、彼はどのようにして刺客を討ったかを語り始める。しかし、歴戦のつわものである皇帝は「無名」から殺意を感じ取り、彼の話が偽りであることを見抜いてしまう。果たして真実は?そしてその真実に隠された話とは
私評:ここで私が大王を殺せば、また多くの血が流されるでしょう・・・・世界各国で記録的なヒットを飛ばし、鳴り物入りで日本に上陸する香港の超大作です。すでに予告編を何度も見て、その都度「見たい!」という気分にさせられてきたので、期待値はかなり高いものになっていました。しかし、この作品は実に素晴らしかったです。カッコ良くて、美しくて、そして心を打つ作品なのです。まずはアクション!登場人物全てがすごいアクションをこなします。中でもすごいのは、やっぱりジェット・リー。CG,ワイヤーアクションもすごいのですが、いわゆる生身のアクションがすごい。これは香港映画の十八番ですからね。そして美しい映像の数々。映画はいくつかのストーリーが語られるのですが、その都度色を変えています。原色の「赤」「青」「緑」そして「白」の世界の中で舞う主人公たちが実に美しい。中でもチャン・ツィイーとマギー・チャンの戦いのシーンで舞い踊る枯葉は見事なまでに美しかったです。そしてストーリーも前半は、アクションの見せ場ばかりですが、話が進むにつれ深みを増していきます。それぞれの「英雄」が抱える「愛情」「名誉」「義理」、そして「献身」に話が及ぶ頃には、もう完全に私の心は古き中国に飛んでいました。その辺りの演出はやはり、チャン・イーモウなんですね。上映時間はわずか90数分。しかし、その中には見所がぎっしり詰まった最高のエンタテイメント映画です。この先何度も見たい・・・。 
ハルク  監督:アン・リー  出演:エリック・バナ、ジェニファー・コネリー
HULK  2003年 アメリカ映画
遺伝子学者のブルースは、夜毎、子供の頃の悪夢にうなされていた。彼の父親は自ら行っていた研究の実験台に自分の体を使用し、そして異変を起こした彼の遺伝子が彼の息子ブルースに継承されたのだ。ある日、ブルースは実験中に大量のガンマ線を浴びてしまう。以来、彼の中に「怒り」の感情が芽生えると彼の中の「ハルク」が目を覚まし、ブルースは緑色のモンスターに姿を変えてしまうのだった。ブルースを捕獲しDNAを採取しようとする軍、そして彼の父親もブルースを追いかける。怒りが増すごとにどんどんと強大化していくハルクは、最新兵器でも止められない。しかし、ブルースの唯一の理解者ベティだけが、彼を抑えることができるのだが・・・・。
私評:「本当に大丈夫なの?」「100%だよ。いや、それ以上さ」「それはどういう意味??」・・・・最近、雨後の筍のように次々とアメリカンコミックが実写で映画化されていますよね。今年だけでも「Xメン」「デア・デビル」、そしてこの「ハルク」と3作が映画化されました。実を言うと「デア・デビル」が私的には×だったので、「ハルク」は全然期待していなかったのですが、予想を裏切る素晴らしい出来で大満足。とにかく、ハルク自身の特撮がすごいです。予告編だけ見ると、なんかカクカクして動きも変に見えたのですが、実際はすごくリアル。そしてCGと実写が実に見事に融合しているのです。その迫力たるや・・・。怪物犬との戦い、戦車との戦い、ジェット機との戦い、そしてクライマックスのとんでもない敵と、次から次へと驚愕の映像が繰り広げられます。そして映像だけじゃなくて、ストーリーもすごく良くできています。監督は「グリーン・ディステニー」のアン・リー。アメリカのコミックをアジアの監督が映画化するというのも、すごい事ですよね。独特の映像美はもちろん、巧みに使われる分割画面がすごく良い効果をもたらしています。主演はエリック・バナ。彼の配役は見事に当たりましたね。まさに彼はハルクです。ベティ役はアカデミー賞女優のジェニファー・コネリー。そしてブルースの父親役はニック・ノルティ。軍を率いる将軍にサム・エリオットという布陣も見事です。めちゃ面白かったです〜!!
トーク・トゥ・ハー  監督:ペドロ・アルモドバル  出演:レオノール・ワトリング、ハビエル・カマラ
Talk To Her  2002年 スペイン映画
病院のベッドに横たわる、アリシアは事故で昏睡状態となり深い眠りの中にいた。彼女の完全看護の看護士、ベニグノは、4年間眠り続ける彼女の世話をしていた。そして彼女に日々の出来事や感動的な舞台や映画について語りかけるベニグノ・・。 一方、女闘牛士のリディアもまた、競技中の事故によって昏睡状態で入院していた。彼女の恋人であるアルゼンチン人のマルコは、突然の事故に困惑し、彼女の傍らで泣き、ふさぎこんでいた。 互いの境遇を語り合ったベニグノとマルコの間には、いつしか厚い友情が生まれていった。・・・。
私評:なんだかとても感動した。それは得体の知れない、心の底から沸き起こってくるような快感のようでもあり、なんとも言えない遣る瀬なさのようでもあり。ベニグノの献身的な愛が奇跡を呼び起こしたのに・・。彼の愛情表現って、言葉や活字にしてしまうと、どうも醜いものにとられそうなのであえては書きませんが、私は嫌悪感を抱くどころか、むしろ共鳴してしまった・・。一方、もう一人の男マルコは涙に咽ぶことしかできない。接し方は違うにせよ、この二人の男がどれほど彼女を愛していたかが、思い切りストレートに伝わってきますよね。そして物語とリンクしてピナ・パウシュの舞台、そして珠玉の音楽たちが映画を盛り上げて生きます。主演の4人の中でも、私の目を釘付けにしたのがレオノール・ワトリング。彼女の美しさって、私の中ではある意味完璧なんです。監督は「オール・アバウト・マイ・マザー」のペドロ・アルモトバル。前作は女性の目線だったので、イマイチのめり込めなかったのですが、今回は男性の目線なので思い切り感動移入しました・・・
ライフ・オブ・デビッド・ゲイル  監督:アラン・パーカー  出演:ケビン・スペイシー、ケイト・ウィンスレット
Life of David Gale  2002年 アメリカ映画
全米の中でも死刑の執行回数極めて多いテキサス州。大学の哲学科教授デビッド・ゲイルは、とても優秀な教師であり、また人気者だった。しかし、彼は死刑制度反対運動に熱心に取り組む活動家でもあった。しかし彼は今、同僚女性をレイプしたうえ殺害した罪で死刑が確定し刑務所の中にいた。そんな折、タイム誌の女性記者ビッツィーの元に、突然ゲイルが独占インタビューを申し出てきた。彼女に与えられた時間は3日間。デビッド・ゲイルの有罪を疑っていないビッツィーだったが、彼の話を聞くうちに、彼は無実なのではという疑問が浮かんでくる。しかし、その事件の裏にはとんでもない事実が隠されていた・・・・・。
私評:不当な裁判のせいで、何人の無実の人間が死刑にされたと思う??・・・・まさに息を呑む展開。テーマはすごく重々しいのですが、映画は小気味良いテンポでサクサクと進んでいきます。そしてゲイルの話を聞いていくうちに、私が抱いたのは紛れもないひとつの真実だった。そして私の中の希望をひとつひとつ打ち消されてしまった。これは死刑制度への反抗を描いただけではなく、ジャーナリズムへの警鐘であり、そして人間の信念の限界を描いた作品でもあると思います。2転3転するストーリーはエンドクレジットまで目が離せないでしょう。主演の3人の演技は本当に素晴らしいです。しかし、ケビン・スペイシーはすごい!まさに、アカデミー賞俳優です。今回の台詞の量は半端じゃないです。そしてケイト・ウィンスレット、ローラ・リニーの二人の演がまた巣晴らしかったです。この主役3人の緊張感あふれる演技が、この映画の一番の見所といって良いのではないでしょうか?しかし、・・・・・強烈な映画でした。
沙羅双樹 監督・主演:川瀬直美  出演:樋口可南子、福永幸平
Shara-Souju  2003年 日本映画
奈良の旧市街地に暮らす麻生家は代々の墨職人。ある熱い夏の日、麻生家の双子の兄弟、圭と俊はふたりで遊んでいたが、圭は突然姿を消してしまう。必死の捜索も虚しく圭が見つかることはなかった。まるで、神隠しにあったように・・・。5年後、17歳になった俊は、いまだにその事件のトラウマを抱えていた。そんな彼も幼なじみの夕に淡い気持ちを抱いていた。俊の父親は地元の"バサラ祭"の準備に忙しく、母は臨月を迎えようとしていた。ふたりも5年前の事件を引きずっていた。そんなある日、警察が麻生家を訪れ圭が見つかったと告げる・・・・・
私評:人間には「忘れてええ事」と「忘れなあかん事」と「忘れてはあかん事」があるんよ・・・河瀬直美監督の作品では「火垂(ほたる)」がすごく印象的だった。なんとも言えない、包み込むような暖かさがあった。今回、カンヌ映画祭に出品されたことでも話題になったこの作品。河瀬監督の今までの映画の舞台は全て、彼女の故郷の奈良。今回も曲がりくねった路地の奥の方まで、カメラが入り込んで行きます。それはまさに地元民のみが知る、不思議空間なのです。多分、この作品にはしっかりとした台本はないと思います。シチュエーションだけを与えられた役者が、その場で言葉を紡いでいく。それはすごく自然な感じもするのですが、逆にぎこちなさも感じられてしまう。役者陣の中でも貫禄を見せるのが樋口可南子。やはりさすがです!どんよりしていた主人公たちが笑顔にたどり着くまでの物語を締めくくるのは、歌姫UA。彼女の歌声と奈良の空撮シーンはすごく印象的でした・・・。


前回の記事も読んでね〜!



I Love Movieに戻る