今回も4作品をご紹介。 イギリスの女性監督の問題作、スペインが誇る名監督の作品、
そしてキングの問題作。 そして極めつけハリウッド映画の最新作です。バラエティ豊かでしょう?
1998年 スペイン・アルゼンチン合作映画
監督 : カルロス・サウラ
主演 : ミゲル・アンヘル・ソラ
セシリア・ナロバ
ミア・マエストロ
マリオはショー・ビジネス界では名声を得たが、私生活では妻に逃げられ
失意のどん底にいた。プライベートを必死に忘れようと仕事に没頭するマリオ。
彼の新作はタンゴの映画だ。 ある日バーで声をかけてきたのは怪しげな
事業家でしかも、マリオの新作の大出資者アンヘロ。 彼は愛人のエレーナを
映画で使うよう頼むのだった。エレーナは若く、美しくそして才能豊かなダンサー。
マリオはすっかりエレーナにのめり込み、いつしか二人は愛し合うようになる。
しかし、それはとてもリスキーなゲーム。愛人を取られて黙っているようなアンヘロ
ではないからだ。また、同時進行で映画は着々と練り上げられて行く。厳しい
リハーサルを重ね、映画「タンゴ」のクライマックスのリハーサルが始まる。
ダンサーとエキストラ数百人が登場する。その中の一人の若い男がナイフを
片手にエレーナを狙う。そして彼女の胸に突き立てられる。アンヘロの
送った刺客か? 物語は急転直下、意外なラストに向かってひた走る。
私評 : 哀愁に満ちた旋律と、情熱的な動き。 求愛の官能と生への喜び。 タンゴはそんな踊りだ。
主人公のマリオの私生活の苦悩とシンクロしながら、少しずつ形になっていく映画「タンゴ」
エレーナへの愛が、想いが、欲望が創作の糧になっていく。 もともとタンゴと言うと、男女が
体をピッタリと密着させ、絡み合うようなダンスです。 タンゴの本質って?? 答えは
この映画の中に垣間見えたような気がする。鏡を使った演出、ライティング、自然の光、陰
カメラはそんなセットの中でうごめき合うダンサーを見事に捉えている。好きな構図です。
また、ダンサーが超一流ばかり。これだけでも一見の価値ありです。 20曲以上使われた、
音楽も艶かしくて、美しくてうっとりさせられる。
ちなみにカルロス監督の過去の名作たちも要チェックです。 「カラスの飼育」「カルメン」
「エル・ドラド」、「恋は魔術師」など、見応えのある作品が一杯です。
1997年 イギリス映画
監督:カリーヌ・アドラー
主演:サマンサ・モートン、クレア・ラシュブルック、リタ・トゥシンハム
母親の愛に飢え、いつも母の愛を独り占めしてきた姉を疎ましく想っているアイリス。
ボーイフレンドのゲアリーともイマイチしっくり行ってない。そんなある日、愛する母が
突然死んでしまう。悲観にくれるアイリス。母の急死は彼女に大きな衝撃と同時に
虚無感を与えてしまう。ぽっかり空いてしまった心の隙間を埋めるため行きずりの男との
セックスに走り、またその刺激によって心の痛みを忘れようとする。男たちの中でも
トムは何かを感じさせる男だった。会いたい気持ちは募るものの思う様に会えない、苛立ち
から酒と、セックスにどんどん嵌まっていってしまう。姉のローズは出産を控え、自分の
事だけで精一杯。しかし夫の励ましにより落ち着きを取り戻し、妹アイリスを訪ねるが
あまりに荒んだ生活に心を痛める。しかし、ローズはアイリスに母親の指輪が見つからない
と嘘をつき、隠し持っているのをアイリスに見つかってしまう。身も心もボロボロになった
アイリスはボーイフレンドのゲアリーを訪ねるが、彼はすでにアイリスに見切りをつけ
しかも、彼女の親友と交際を始めていた。頼る人も行き場所さえも失い、文字通り素っ裸の
心で彼女はもう一度自分を見つめ直すのだった。
私評: 上のシノプシスだけ見ると悲惨なストーリーのようですが最後はきっちりハッピーエンド!
しかし、これほどストレートな表現で家族の絆、女と男を描いた作品も少ないでしょうね。
キレイごとはほとんどありません。救いようのない自堕落を指をくわえて見ている事しかできません。
しかしアイリスに情が移るのはなぜでしょう? 本当に好きな人の前では素直になれずにいる自分
自身に苛立ち、酒で酔う事により笑いを醸し出し、男と抱き合う事でぬくもりを求める、そんな
自分を止められないのは、本当に心を許し合える人が自分の周りにいるのに、気付かなかったから。
アイリス役のサマンサはとてもキュートな女の子。時には娼婦のように見えるけど、少女のような
笑顔も忘れない。アイリスには小さな夢がありました。それは歌手になる事。教会のゴスペルを
見つめるときの顔。映画のラストでステージの上でアカペラで「アローン・アゲイン」を歌うところ。
とても好きなシーンです。女性が見るとまたきっと違う想いがあるんだろうな〜。
1997年 アメリカ映画
監督 : ブライアン・シンガー
主演 : ブラッド・レンフロ、イアン・マッケラン、ブルース・デイヴィソン
LAの郊外に住むトッドはスポーツ万能、成績優秀で家族に恵まれた明るい少年。
しかし授業で教わったドイツ軍のユダヤ人虐殺(ホロコースト)に興味を持ってしまう。
ある日彼はアーサーと名乗る老人を訪ねる。トッドは彼が元ナチスの副将校クルト・
ドゥサンダーである事を付きとめたのだ。ドゥサンダーは600万人ものユダヤ人を
殺した張本人で「吸血鬼」と恐れられていた。 トッドは証拠をたたきつけ老人を
脅すが、彼が求めていた事はホロコーストの事実。 授業では教えてくれない本当の
事を知りたいだけだった。その日からトッドは毎日老人の家を訪ね、ホロコーストの
惨劇を貪るように聞いた。両親には眼の悪い老人の為に本を読んであげていると嘘を
ついていた。日毎に変貌して行くトッド。また、老人=ドゥサンガーの心にも忘れかけて
いた何かに火がついた。 彼はホームレスを家に引き込み酒を飲ませた上、ナイフを背中に
突き立てたのだ・・・・。
私評 : この映画の監督は、我々観客に心理ゲームを見せつけ、期待を欺く事を楽しんでいるのだろうか?
何と言ってもこの映画の見所は、B・レンフロとI・マッケランの駆け引きだ。まったく先が見えない。
原作を読んでしまっていた私も途中からのストーリーの急展開には驚かされた。B・シンガー監督には
ユージュアル・サスペクツに続き今回もすっかりやられた感じがする。I・マッケランが語るホロコースト
も、すごいリアリティがあって、ドキドキした。ラストのレンフロ少年のまなざしも忘れられない。
キングの作品の棘にシンガー監督が磨きをかけ、レンフロ/マッケランがスパイスを効かせた、怖い映画。
余談ですがトッドのお父さん役B・デイヴィソンといえば「いちご白書」のメガネの主人公の青年。
すっかり貫禄がついてしまった。 いちご白書も好きな映画です。
1998年 アメリカ映画
監督 : F・ゲイリー・グレイ
主演 : サミュエル・L・ジャクソン、ケビン・スペイシー
シカゴ警察でNo.1の交渉人ダニー・ローマン。彼は今日も実の娘を人質に
取った父親との交渉に成功し事件を解決したばかり。 その夜、彼のパートナー
のネイサンに警察年金が何者かに盗まれ内務捜査局の人間も関わっていると言う
情報を知らされる。深夜、ふたたびネイサンに呼ばれたダニーが見たものは
頭を撃ちぬかれたネイサンの死体。そして次の日、彼はなんとネイサンの殺人と
年金の着服の罪に問われる。このままでは勝ち目がないと悟ったダニーは、
内務捜査局のニーバウムと彼の秘書らを拉致し、彼の部屋に立て篭る。シカゴ警察
内では誰が味方で誰が敵なのか分からないと考えたダニーは、西地区のNo.1
交渉人クリス・セイビアンとしか話をしないと告げる。そして二人の交渉人の
頭脳と知力を尽くした壮絶な駆け引きが開始された。ダニーは真犯人を見つける
事ができるのか? そしてクリスは彼の味方となりうるのだろうか?
私評 : この映画については上のあらすじもあまり書かないようにしました。
内容がわかってしまうと面白くないですからね。 しかし本当に先が読めない映画でした。
主人公の二人の個性と個性のぶつかり合いが、まさにこの映画の見せ場です。
炎のように燃えるバイタリティーと強烈なインパクトで相手を説き伏せるサミュエルと、
氷のようにクールでドライ、冷静にして確実なK・スペイシー。 両極端ながらお互いが
その手の最高峰。こんなシチュエーションで演技できる二人は素晴らしい。 また、まさに
はまり役だから余計にすごい。さっきパンフを読んでいたら、当初サミュエルの役は、スタローン
がやるはずだったらしい。(勘弁してくれー!) 二人の天才役者の演技を堪能した!