第16回東京国際映画祭 コンペティション部門


今年のコンペティションも面白い作品がてんこ盛りでした。
全15作品のうち13作品をご紹介します。

ヴァイブレータ  監督 :廣木隆一  出演:寺島しのぶ、大森南朋
Vailator  2003年 日本映画
イチ押し:31歳になるレイは、ある日コンビニでトラック運転手の希寿と出会う。彼女は彼が欲しくなった。熱い視線を送る。すると、彼のトラックは店の外で待っていた。乗り込んだレイは「あなたに触れたい・・」とせがむ。二人はすぐに結ばれた。次の日、レイは希寿に仕事の旅に連れて行って欲しいというと、彼はあっさりとOKした。二人の旅が始まった。希寿は自分ことを話しまくる。妻がいる。娘がいる。昔はチンピラだった。女にストーカーされた。レイは久々に笑った。それまでの彼女はアルコール依存症だった。彼女の「内なる声」に苛まれ不眠、過食を繰り返してきた。しかし、希寿の前だと不思議と心が安らいだ。しかし、トラックの無線をしている時、突然彼女の中の「狂気」が目を覚ます。そして閉じ込めていた感情が洪水のように湧き出し始める・・・
私評:私はあなたを食べた。あなたも私を食べた。ただ、それだけのこと・・・コンビニで出会った男女のロードムービーです。唐突に男に抱かれるレイに、ちょっとビックリさせられたが、旅が続くに連れ二人の感情に近づいていく。とにかく寺島しのぶと大森南朋の二人が最高に良い演技を見せてくれます。テンポ良く進む前半と、二人の感情をじっくり見せる後半のバランスも素晴らしい。また、この映画は寺島しのぶと大森南朋の二人以外はほとんど画面に登場しません。それゆえ、二人が紡ぐ言葉が、この映画の全てなのです。たった、72時間の二人の旅。しかし、出会った時と、別れる時の二人の顔が全然違うのが印象的です。特に寺島しのぶの表情は素晴らしい。こういう映画もありだなと思いました。そしてすごく面白かったです。
暖 〜 ヌアン  監督:フォ・ジェンチー  出演:グオ・シャオドン、リー・ジア、香川照之
Nuan  2003年 中国映画
イチ押し:10年ぶりに故郷に戻ってきたジンハー。彼にはこの10年間、戻ってきたくても戻れない、ある理由があったのだ。それはこの土地に残したヌアンの事だった。しかし、ここに戻った早々、彼はヌアンと会ってしまう。足を引きずりながら、泥だらけになって働いている彼女は10年前のジンハーの記憶の中の女とは違う人だった。しかも、彼女は村で爪弾きにされていた聾唖者のヤバと結婚していたのだ。10年前、ジンハーはヌアンに夢中だった。しかし、彼女は村にやってきた劇団の男に恋をする。そして彼と一緒に村を出ようと考えていたが、劇団の募集がなく二人は離れ離れに。彼はきっと迎えに来ると言ったが、1年が過ぎても戻ってはこなかった。落ち込むヌアンを励まそうと、村にある大きなブランコに乗った二人。久しぶりにユアンが笑った。ジンハーは幸せだった。このままずっとこうしていたいと思った。しかし、次の瞬間、ブランコの綱が切れヌアンは足を怪我してしまう。そんな折、ジンハーは北京の大学に合格。村を離れる事になる・・・
私評:彼が戻ってこなかったら、あなたと結婚する・・・人の心って都合がいい物かもしれませんね。ある日、自分の過去を振り返った時、自分の人生の忘れ物に気づく時があるでしょう。忘れてしまっている約束があるのでは??この映画では人を深く好きになる心と、それでもどうにもならない運命のいたずら、そして10年ぶりにその運命と向き合う話が描かれています。ヌアンとジンハーの恋物語もすごく良いのですが、私が思わず泣いてしまったのはヤバの行動。彼は人は良いけど、ちょっと知能にも問題があります。しかし、そんな彼でもヌアンの気持ちを察するんですね・・。自分にはできない事をジンハーならできると察知するんです。このシーンは涙・涙・・・。このヤバを演じているのが、我等が日本代表の香川照之。彼の演技は素晴らしかったです。もちろん、中国の田舎の美しい景色もこの映画の大きな見所です。監督は「山の郵便配達」のフォ・ジェンチー。ジンハー役はグオ・シャオドン、ヌアン役はリー・ジア。(この作品は今回の東京国際映画祭コンペティションの最優秀作品賞を受賞)
 
カレンダー・ガールズ 監督:ナイジェル・コール  出演:ヘレン・ミレン、ジュリー・ウォルターズ
Calendar Girls  2003年 イギリス映画
ヨークシャーの片田舎の婦人会。どこの国でも同じだが、これだけの女性が集まるとかしましい。しかし、その中の一人、アニーの夫は白血病に冒され余命いくばくもなかった。そしてついに迎えた死。そこで婦人会のメンバーは毎年恒例の、婦人会が作成するカレンダーの資金を、白血病の研究の資金として差し出すことにした。しかし、過去にこのカレンダーで儲けが出たことがない。そんな時アニーの親友クリスはとんでもないアイデアを持ち出す。それは婦人会のメンバーのヌードカレンダーの作成だった。ところがこのカレンダーが大当たりして、彼女たちは一躍、時の人となる・・・・
私評:ひまわりの花の美しさはヨークシャーの女性のごとく・・・・イギリスの淑女による「フル・モンティ」?? まさに途中までは峠を越えたオバちゃんたちが思い切ってヌードになるという展開。しかも、このオバちゃんたちがキュートなんですね。前半のカレンダーができるまでは、まさにコメディのノリ。もう、笑いに継ぐ笑いで会場も大盛り上がり。しかし、物語はこの時点でまだ半分なのです。このカレンダーが大成功して、世界中で取り上げられる辺りからは、友情や家族を巻き込んだ、かなり感動的なドラマになって行きます。そして思わぬ試練や障害が彼女たちを待っています。そしてこの映画のもうひとつの見所はイギリスの田舎の美しい風景です。オバちゃんたちが緑の丘の上に集まって太極拳をするシーンや、クリスの一人息子がいつも行く、大きな岩の上からのシーンなど本当に美しい景色も堪能できます。主演は「ゴスフォード・パーク」「鬼教師ミセス・ティングル」のヘレン・ミレンと「リトル・ダンサー」のジュリー・ウォルターズ。この映画はイギリスの映画興行成績の歴代7位にランクインするほど、大ヒットをしたそうです。日本でもまもなく公開されます。
きょうのできごと  監督:行定勲  出演:妻夫木聡、田中麗奈、伊藤歩、池脇千鶴
A Day On The Planet  2003年 日本映画


京都の大学院に進学することが決まった正道の家に集まった大学の仲間たち。映画監督を目指している中沢と、その恋人の真紀、二人の友人のけいと。そして3人の男たち。四方山ごとに盛り上がり、次々と酒を交わす。そして酔っ払った。テレビでは海岸に打ち上げられたクジラの話や、ビルとビルの間に挟まった男の話が流れている。同じ時間を生きている。それぞれが抱える問題、悩み、後悔、希望は違えども、今日が終われば、明日が来るのは、誰もが一緒。そしてきょうも夜が終わり、新しい朝がやってくる・・・・。 
私評:明日って、夜中の12時を過ぎた時にやってくるんだよね〜・・この映画もしっかりしたストーリーというのはありません。映画に登場する全ての人々が主人公で、それぞれが心のうちを語る作品です。それは愚痴であったり、心の叫びだったり・・・。この映画を観ていて思い出したのは小津安二郎監督の作品。まさに淡々とした日常を、カメラでしっかり押さえていくという手法は小津監督と同じ。これはティーチ・インで行定監督も言っていました。たかが2時間の映画の中で、あれだけの登場人物の心理を、けっこう深く掘り下げて描かれているのです。何度か観る機会があれば、その都度違う人に注目して見るのも面白いかもしれませんね。また、けっこう淡々とした映画なのですが、あちこちに笑える要素があって、それがまた実にいいタイミングでやってくるんです。出演は妻夫木聡、田中麗奈、伊藤歩、柏原収史、池脇千鶴、山本太郎などなど、今の日本映画を支える、若手がたくさん出演します。これは面白かったです!
心の羽根  監督:トマ・ドゥティエール  出演:ソフィー・ミュズール、フランシス・ルノー
Feathers in my head  2003年 ベルギー映画


ベルギーの小さな町ジェナップ。この街に住む主婦のブランシェは夫と5歳になる息子アルチュールと暮らしている。目に入れても痛くないほど、可愛い最愛の息子は夫婦の大事な宝物であった。ある日、ブランシェが夫とのセックスに夢中になっている間に、好奇心旺盛なアルチュールは一人で歩き続け、いつか家族と来たことのある沼地へと向かう。それ以来、アルチュールは行方不明となってしまう。息子の死を受け入れられないまま、ブランシェは息子の葬儀に出た。そしてその悲しみは、いつしかブランシェの心に偏重をきたすのだった。彼女は息子の幻を追い、いつしか夢の世界を彷徨うになってしまう。現実を受け入れさせようと必死に努力を重ねる夫。ブランシェはアルチュ−ルに導かれるかのように、沼地で時間を過ごすようなる。そこで彼女はバードウォッチングが趣味の少年と出会い、交流を始める・・・。
私評:ボンジュール!ボンジュール・・・・アルチュール少年が行方不明になった日、彼はゴジラの人形を片手に、すれ違う人に挨拶をしながら歩いていった。そのシーンはすごく印象に残っています。この映画の監督は(たぶん)すごくビジュアルにこだわる人だと思います。それゆえ、この映画の中では印象的なセリフというのは浮かんでこないのですが、印象的なシーンは幾つも浮かんできます。水中からのカメラで、魚を啄みに来る鳥の映像。アルチュールがでんでん虫に絵の具で絵を描くシーン。そしてブランシェがいつも息子の幻を見ていたスーパーマーケットの乗り物。物語りもすごく面白いのですが、そんなシリアスなドラマのバックには、いつも美しい自然の姿が見事にカメラに押さえられています。この辺りにはすごく感動してしまいました。この映画のストーリーはあまり起伏がなく、登場人物の心の動きをじっくりと語る手法なので、そういった美しい映像とセットにする事によって最後まで飽きずに見ることがでるのですね。この映画は来年、公開が決定しました。
ゴッド・イズ・ブラジリアン  監督:カルロス・ディエゲス  出演:アントニオ・ファグンデス、パロマ・デュアルテ
God is Brazilian  2003年 ブラジル映画


タイヤ修理の店に勤めるタオカは、ぐうたらな男。今日も借金取りに追われなんとか逃げてきたところ。船の上でぼんやりしていると、一人の老人が海の中の杭の上に立っていた。不思議な老人に声を掛けると、彼はなんと神様。実は長年にわたって人々の願いを叶えてきたが、そろそろ休暇をとろうというのだ。そのためには彼の替わりに神の仕事をしてくれる聖人を探さねばならないという。神様に協力すれば何か良いことがあるかも?というわけで、タオカは神様のお供に。旅の途中で立ち寄った葬儀で、二人はマダという若い女性に出会う。彼女も自分の中の可能性を見つけるため、二人の旅に合流する。3人は旅の途中でさまざまな光景を目の当たりにする。それは幸せなことより、不幸なことの方が多いような。そしてついに自分が探していた「聖人」と出会うのだが・・・・・・・
私評:人間はどこで「間違える」事を知ったんだ・・・・昨年の「シティ・オブ・ゴッド」以来注目のブラジル映画。しかし、今回はハートウォーミングなロードムービーでした。要所要所に色々な社会的な問題を提議しながらも、ユーモアを忘れない。これは監督が常日頃から意識していることなのだそうです。神が創造した美しいパラダイスをいかに人間が汚したかという題材があちらこちらに見られます。そしてブラジルの広大な景色もじつに美しく画面に納められています。マリンブルーの海、黄金色に輝く落葉、乾いた砂漠、そして都市・・・。しかし、ブラジル人もテンションが高いです。私が苦手なロベルト・ベニーニに負けないくらいハイテンションなタオカには、ちょっと退いてしまった・・・(笑)
謎の薬剤師  監督:ジャン・ヴェベール  出演:ヴァンサン・ペレーズ、ギョーム・パルデュー
The Pharmacist  2003年 フランス映画


ヤン・ラザレックは小さな薬剤店を営む若者。彼は環境問題に事のほか興味を持っていた。ある日、彼の店に喘息の老人が薬を受け取りにやって来た。その直後、タバコ会社に勤める男がタバコを咥えたまま店に入ってきた。喘息の老人がいるのに・・。その夜、彼はヤンによって天誅を加えられる。ヤンによって捕らえられた男は何十本ものタバコを一気に吸わされ・・・。それからもヤンの正義の天誅は続いた。そんなある日、ヤンは地球保護会議の席上で若い男フランソワと出会う。人目でフランソワを気に入ったヤン。しかし、フランソワはヤンが起こしている連続殺人事件の担当刑事だった。お互いの素性を知らずにいた二人は急速に仲良くなっていく。しかし、ヤンはある事件で失態を演じインターネット上に素顔を晒してしまう。警察はフランソワを囮にし逮捕を試みるのだが・・・・。
私評:ふられた男の気持ちなんて、お前に分かるわけがない!!・・・・なんとも、アヤシイタイトル。そしてフランスを代表する若手二枚目俳優、ヴァンサン・ペレーズとギョーム・ドパルデューが共演となれば、興味も倍増。おどろおどろしい話だとばかり思っていたら、けっこう笑える映画だった。演じている方はかなりシリアスなのですが、その時々の設定がめちゃめちゃ強引で「おいおい、それはないだろう!」と何回ツッコミを入れたことか・・・。そういう意味では、期待とは違う作品だったのですが逆の意味で面白かったです。ヤン役のヴァンサン・ペレーズは怪しすぎます!(笑)この映画では彼の目がすごく不気味でした。そしてフランソワを演じるのはパリの暴れん坊ギョーム・ドパルデュー。今年6月に右足を切断した彼ですが、これは昨年の映画。足を切断後は麻薬の不法所持、銃の不法所持などで何度もお縄を頂戴し、父親のジェラールにも勘当されたとか・・・。この映画を観ていてつくづく思ったのですが、パリってやっぱりオシャレな街ですよね・・
オーメン  監督:タマラック・カムットタマノート  出演:ガウィー・タンジャララック、スパチャヤー・ルンルン
Omen  2003年 タイ映画


親友同士のダン、ビック、ビームの3人は職場も一緒。しかし、今日はレイアウトのデザインをめぐって上司に怒られてしまう。3人は各々家路に着くがダンは怪しい老婆と、ビッグは不思議な力を持つ物売りの少女と、そしてビームはオームという美しい少女と知り合った。ダンは老婆から数々の予言を聞かされ、神経質になっていた。数日後、ダンは老婆の家でオームの写真を見つける。なぜ、ここに彼女の写真があるのか?そしてそこに浮き出してきたのはビームの顔。そしてビッグが出会った少女は交通事故で病院に担ぎ込まれる。彼らが出会った3人の女性は、ある予兆(オーメン)のだった。そしてこれらの発端は1917年の少年と犬の物語に遡る・・・・
私評:階段を使いなさい。小さな箱に入ってはダメ・・・。今や日本の映画ファンの間では絶大な人気を誇るオキサイド&ダニー・パン兄弟がプロデュース、脚本、編集を手がけたタイの不思議な映画です。ホラーというジャンルに属するのでしょうが、なんだかとても爽やかな後味。ちょっとネタばれになってしまうかもしれませんが、これはリー・インカーネーションの映画です。人間の歴史、そして時間は不思議な縁で繋がっている。そして日常の中でも突然、そういう発見をすることがあるでしょう。これは仏教の国ならではテーマかもしれませんが、輪廻転生を面白い話に置き換えていました。主演の3人はタイで有名な3人グループの歌手だそうです(日本で言う少年隊みたいな??)それゆえタイでは観客の半分以上がティーンの女の子らしい。ところがこの映画の撮影後に彼らの一人が交通事故に遭い、いまだに意識不明の重態だそうです。これもタタリなのか??また、この邦題のオーメンというのはパン監督も知らなかったそうです。(勝手につけられたタイトル)タイ語のタイトルは「デ・ジャ・ブー」みたいな意味だそうです。
SANSA 監督:シグフリード  出演:ロシェムディ・ゼム、藤谷文子
SANSA  2003年 フランス映画


自由奔放な青年サンサは、ふらりふらりと旅を続ける。フランスのパリではすっかり有名な彼は警察にも目をつけられている。そして彼はスペイン、イタリア、ハンガリー、ロシア、日本、エジプト、ポルトガル、ガーナ、そしてブルキナファソへ・・。どこの国に行っても彼は女の子をナンパして、普通の人々の流れに飲み込まれいく。 言葉は違っても彼にとっては国境などないのだ。サンサは人々と話し、不思議な友情を育んでいく。そして偉大なヴァイオリニストのクリックと出会う。そう、サンサこそ自由なのだ・・。
私評:モロッコのクレイジー・ビルにこれを渡してくれ!!・・・・この映画はすごく不思議な映画です。特にしっかりしたシナリオもないのかもしれない。ただ、サンサという男が国から国へと渡り、カメラが彼の後ろから着いて行くと言う手法の映画。東京国際映画祭の新聞に「フウテンのSANSA」とい見出しがあったが、まさにフランス版「男はつらいよ」と呼べる映画かもしれない。そしてそれぞれの国々でサンサは女をナンパしまくるのですが、これがまた美人ばかり。日本の代表は藤谷文子@セガールの娘。彼女もこの映画の中ではすごく良いキャラクターでした。映画として良いとか、悪いとかいうのではなく、私は面白いと思いました。そしてこういう映画も「アリ」だと思いました。
スーツ  監督:バフティウヤル・フドイナザーロフ  出演:アレクサンダー・ヤツェンコ、イヴァン・ココリーン
the Suits  2003年 ロシア映画 


ロシアの小さな港町に住む3人の青年ピーキー、ゲカ、ドゥムボ。少年と大人の狭間に差し掛かった彼らは、小さな子の町では到底、消化しきれないほどのエネルギーを蓄えている。そして日々、喧嘩、いたずらに明け暮れていた。そんな彼らが見つけたのは、大きな町のブティックに飾ってあったグッチのスーツだった。そのスーツは彼らの想像力を思い切りかき立て、いつしか彼らはこのスーツを着ればきっと願いが叶うと信じ始める。そしてやっとの思いで手に入れたスーツ。彼らは一着のスーツを交代で着ては、それぞれが直面している問題にぶち当たるのだった。母と自分を置いて去っていった父親との確執、義母に抱く憧れと嫉妬、初めて好きなった年上の女。しかし、そんな彼らに思いがけぬ罠が・・・・
私評:「彼女はユダヤ人だから、割礼をしなくちゃ。」「これってどれくらい切れば良いんだ??」・・・国は違っても若者たちの多くは内に秘めたパワーを爆発させることができずに、苛立っている。ましてや、この映画のような寂れた街では自分自身の可能性までも、埋もれてしまうような錯覚に陥るかもしれない。「自分のいる世界はこんなちっぽけな町じゃない。」3人は常日頃からそう思っていたんでしょうね。ところが彼らの見つけた「スーツ」が、彼らを変えて行くのです。彼らにとって「スーツ」はポパイのほうれん草のようなものだったのでしょう。主人公の3人がそれぞれ問題を抱えていて、それらと向き合うシチュエーションが面白かった。シリアスなものもあれば、コミカルな恋もあったり。でも、どれも「男の子」を経験した男性なら、きっと理解できる事ばかりのはず。この映画でティーンエイジャーを演じている3人は、なんとみんな20代中盤。それなのに舞台挨拶でもガキみたいで笑えました。
サンタ・スモークス  監督:クリス・ファレンティーン&ティル・テラー  出演:ティル・テラー、クリスティ・ジーン・フルスランダー
Santa Smokes  2003年 アメリカ映画


NYの売れない役者ジョニーは今日もオーディションで悪態をつき不機嫌に。しかも、恋人からは別れを告げられる始末。そして借金の取立ても彼を追っている。そんな彼の目に飛び込んできたのが「サンタ」のアルバイト。ほかに選択のない彼は嫌々ながらサンタの衣装をまとい町に出た。しかし、彼の鬱憤は膨れるばかり。そんな時、タバコを吸いながら仕事をしていたら、煙の向こう側から天使のコスチュームの女性が現れた。彼女の名前はズバリ「エンジェル」。彼女と時間を過ごしているうちに、彼の中の鬱憤が少しずつ消えていった。そして二人が寄ったレストランで、翌日の仕事を依頼される。それは依頼主の家にサンタと天使のコスチュームで出向き、子供たちをビックリさせることだった。無事に仕事をやり終えた二人の距離は、友達のラインを超えていた・・・・。
私評:ねえ、ママ。睾丸って何〜??・・・・なんと1万ドルという低予算で作られた映画です。しかも、この映画は今回の東京国際映画祭の優秀監督と優秀女優賞を獲得。この映画もデジカメで登場人物のあとを追いかけていくような展開。しかも、NYで撮影しているので群衆の中を出演者がどんどん歩いていくのを、カメラが必死に追いかけていく。この辺りの撮影はデジカメの強さでもありますね。また、ロックフェラーセンターのスケートシーンも、普通の映画撮影をしようとすると手続きが大変らしいのですが、デジカメならスイスイ。つまり、NYの人々の吐息まで聞こえそうなくらいまで、カメラが近づいているのです。そして自分が群集に混じっているような錯角さえ覚えました。監督が強調していたのは「この映画は愛の映画なので、銃も犯罪も殺人もない」ということ。エンジェル役の女性クリスティーナ・ジーン・フルスランダーはすごくきれいな女性。主演女優賞を獲ったのはすごく嬉しいですね。また、この監督は東京で数日間カメラを廻し、「サンタ・スモーク・イン東京」をすでに撮りあげたらしい・・・
さよなら、将軍  監督:アルベルト・ボアデーリャ  出演:ラモン・フォンセレー、ミニー・マルクス
Good Bye, Generalissimo!  2003年 スペイン映画


1973年のスペイン。長きに渡って独裁政治をしてきた将軍のフランシスコ・フランコとその家族はマドリッドの宮殿に暮らしていた。精神的にも肉体的にも衰えを見せた将軍の健康を気遣った彼の取り巻きは、極秘のうちにミューラーという女医を宮廷に招いた。将軍の健康を一番に考えるミューラーは病院に移すことを勧めるが、世間体があるため宮殿を出ることができない。日々、悪化していく将軍の症状。しかし、その宮殿の裏側では権力争いが勃発する。古きよき時代に逃避を始める将軍は、いつしか献身的な治療をするミューラーに心を開いていく・・・・・・
私評:この家は何でこんなに、ハエが多いんだ・・・・すごくブラックなコメディ映画です。これを見ていて思い出したのはイギリスの「モンティ・パイソン」。雰囲気からして、まさに「モンティ・パイソン」なんです。そもそもこの映画の出演者たちはひとつの劇団のメンバーなのです。しかも、一人で何役もこなしています。それがフランコ将軍派とアンチ・フランコ派の両方を演じていたりします。特に主演のラモン・ファンセレーは将軍他4役も演じているんですよ。しかし、私はスペインの歴史に疎く、このフランコ将軍を知りませんでした。彼のバックグラウンドを知らないと、笑えないシチュエーションがたくさんあるので、ちょっと残念でした。しかし、舞台挨拶にたった主演のラモンが言うには、死して27年経つ今日でもフランコ将軍は影響力を持っているそうです。そしてこの映画のもうひとり(?)の主役はハエ君です。
ウィニング・チケット  監督:シャーンドル・カルドシュ、イレーシュ・サボー  出演:シャーンドル・ガーシュパール、マリアン・サライ
Wining Ticket  2003年ハンガリー映画


1950年代のハンガリーはブタペスト。フォークリフトの運転手のベーラは家族と間借り人と小さなアパートに暮らしていた。貧しいながらも小さな幸せを大事に育てていた。ところがある日、彼はサッカーくじで自分の給料の100年分の賞金を手にする。キャッシュで渡された札束の山を見て、ベーラは喜びと同時に不安をも抱え込む。賞金を銀行に運ぶまでの間に付き添った国家安全局員と車に乗り込んだベーラを、突如群集が囲む。群衆は執拗に金を狙うであろう、国家安全局からベーラを開放した形になった。何とか家にたどり着いたベーラは、紙幣を金に替える事をアドバイスされる。妻の制止を振り切り、換金に行ったベーラ。しかし、同行した男は銃弾に散ってしまう。驚いて家に取って返すと、家族は家出をしてしまっていた。ソビエト軍の銃火が日増しに酷くなっていく中で、ベーラは購入したパブにすべての人々を招き入れる・・・・
私評:お前もいつかは俺に感謝する日がやってくるさ・・・・この映画も時代背景を知らないとちょっと着いていけない部分が多々あります。この時代、ブタペストの人々は自由を手に入れるために反旗を翻し、反乱を起こしたのですが失敗に終わった。この映画はそんな最中の話です。そんな最中に大金を手に入れることが、果たして幸せなのか?そういった皮肉も映画の中にたっぷり込められている。この映画はコンペティション作品ではあるのですが、内容も、そしてジェットもしっかりとって撮影された映画です。ただ、話しがブツブツと切れてしまい、イマイチ私はノレませんでした。主人公の家族のおばあちゃんのセリフが、いちいちシュールで笑えたのが印象に残りました・・・


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