2003/3/10号

 今年に入ってから読んだ本をいくつか紹介します〜。

リアルワールド  桐野夏生 著
Real World  集英社 1400円(税別)
イチ押し!!:むせ返るような夏の日、ホリニンナは隣の家でガラスの割れる音を聞いた。そしてその日初めて、隣に住む同級生の男ミミズと話をした。実はミミズは自分の母親をバットで殴り殺していたのだ。その日の夜、ホリニンナは自分の自転車が盗まれ、しかも携帯もなくなっていることに気付く。なんと、どちらもミミズの元に渡っていたのだ。しかも、彼は自分の友達に電話を掛け回っていたらしい。彼にシンパシーを感じた友人のユウザンは彼のために新しい携帯と、自分の自転車を差し出していた。指名手配中のミミズの逃亡は続いた。そしてやはり、ミミズに興味を持ったキラリンは、彼を訪ねて潜伏先の高崎へと向かう。・・・・
私評:いきなり今風の若者の言葉が書き連ねられていて面食らってしまった私ですが、さすがは桐野夏生です。とにかく、最後までグイグイ引っ張って行ってくれます。あまりにドライで、シュールでそして浅はかに感じられる若者たちの小さな世界で起こるとんでもない出来事。しかし、この本は私の常識では計り知れない彼らの生態を的確に伝え、彼らと同しの視線で彼らのリアルワールドに導いてくれた。事件は後半にとんでもない展開になり、ちょっと辛くなってしまったけど、登場する若者たちのそれぞれの「リアルワールド」が垣間見れて、すごく面白かったです。以前に、「OUT」「柔らかな頬」で「女」を描ききった桐野さんが、今度は10代の若者を一刀両断。これは若者も読むべきだけど、私のようなおっさんも読むべき内容ですね。
半落ち  横山秀夫 著
 講談社  1700円(税別)
現役の警察官、梶が自分の妻を絞殺したと自首してきた。彼の妻はアルツハイマーで、最近その症状が著しく悪化し、亡くなった自分の子供の墓参りに行ったことも忘れてしまうほど。彼女はそんな自分を責め、そして夫に殺して欲しいと哀願したのだ。そして梶はそんな妻を自らの手で・・・。梶の取調べをしていたのは志木警視。ところが、梶は犯行から自首までの2日間については、堅く口を閉ざし語ろうとしない。まさに「半落ち」の状況だ。しかし、梶を駅で見たという目撃情報が・・・。そして彼のポケットからは歌舞伎町のティッシュが見つかる。その事を必死になって隠蔽する警察、そして真実を暴こうとする警官、検事、記者、弁護士、裁判官。果たして真実の行方は・・
私評:2002年「このミステリーがすごい!」で堂々の1位に輝いた作品です。この小説のラストを読み終えたときは震えましたね。この小説は各章がそれぞれ警官、検事、記者、弁護士、裁判官の目から見たこの事件について書かれています。組織との軋轢、そして立場や目的は違うにせよ彼らは犯人の梶に魅せられる。殺人はもちろん悪行ではあるのですが・・・。また、犯行は認めているので警察としては、2日間の空白を適当な理由で埋めてしまおうとするのです。この空白についてはここでは語れませんが・・・。ミステリーという枠を超えた、あまりに深い人間ドラマに感動させられました。 
リアル鬼ごっこ  山田悠介 著
 文芸社  1000円(税別)

30世紀。ここでは王政が引かれ王の言うことは絶対だった。過去の王は国民の声を良く聞いていたが今の王は若さゆえのわがままで、国民をそして臣下のものを困らせていた。当時、王国では佐藤の姓はゆうに500万人を超えていたが、王はそのことが気に食わなかった。なぜなら、自分の姓が佐藤だったからだ。そして王は自分以外の佐藤をなくしてしまおうと企む。そして行われたのが鬼ごっこだった。クリスマスまでの1週間、毎日11時からの1時間は佐藤の姓をもったものの鬼ごっこが行われる。鬼は王国の兵たち。捕まればすぐに処刑だった。しかし、1週間逃げ続け捕まらなかった者には恩赦があるという。佐藤翼は陸上部に籍をおくアスリート。しかし、彼にも鬼たちは執拗に迫る・・・

なんだか、すごいお話なのですが、なんだかんだ言いながら一気に読んでしまった。500万人の佐藤さんを捕まえるために100万人の鬼を放っても1週間ではぜったいに全員捕まらないでしょうね・・。まあ、そんなことを考えてしまったらこの話は成立しないので・・。ネットでもこの本については賛否両論。この本で面白いのが
@ とにかく走って逃げる。A その時間帯は車の利用も禁止されている。B鬼たちは佐藤さんを発見するためのセンサーを持っているなど・・。所々、幼い表現があったり、変な文章があったりするのですが、作者は若干20歳の青年だったのですね。内容は薄っぺらですが、文章から迸る若さとパワーで読みきることができました。しかし、この本に対する酷評は数知れず。早くも今年のワースト本と言い切る輩もいます。まあ、素人の私が読んでも稚拙な感じがするくらいなのですから・・・
どんなに上手に隠れても  岡嶋二人 著
 講談社文庫  590円(税別)

売り出し中の新人歌手・結城ちひろが誘拐された。大手カメラメーカーの新製品の宣伝に起用し、大々的な宣伝作戦を繰り広げようとした矢先の事件だった。会社はイメージダウンになることを恐れちひろの起用を反対するが、ディレクターの長谷川宇一はこの事件を利用して宣伝を行おうとする。そして犯人が要求してきた身代金1億円を家族の代わりに支払うことに。身代金の受け渡しについて犯人との駆け引きが続くが、巧妙な作戦で犯人は身代金を見事に奪い去っていく。ちひろは無事に開放され、一躍時の人になる。そして新製品のカメラも爆発的な売り上げを見せる。そんな時、彼女の身代金受け渡し、そして警察の行動を逐一スクープした写真が掲載される・・・・

私評:岡嶋二人は昨年の「クラインの壷」「そして扉は閉ざされた」ではまり、今年になって「7年目の脅迫状」「5W1H殺人事件」「開けっ放しの密室」そして今回の「どんなに上手に隠れても」と立て続けに読み漁っています。彼らの小説の良いところは、なんと言っても読みやすさです。そして読み始めると一気に読めてしまうのは、彼らの文章力と取り上げている題材が面白いことですね。今回紹介する「どんなに・・・」はその展開の早さと、おもしろさが見所。事件は2転3転して最終的には思いがけない犯人に辿り着きます。推理小説はこのオチが全てと言っても良いですよね。この小説はオチはもちろんですが、それまでのプロセスもすごく面白いです。次回は彼の「明日天気にしておくれ」を読みます。BOOK OFFで100円で買ったので・・


前回の記事も読んでね〜!



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